マンガ界の巨匠たちが若き日々を過ごしたトキワ荘や、アーティストが集った池袋モンパルナスなど、アートやカルチャーの拠点としても知られてきた豊島区。近年は豊島区国際アート・カルチャー都市構想の下、まちを歩けばアートにまつわるさまざまなイベントに出会えるようになってきた。そんなまちで今精力的に展開されている活動の1つに、池袋のシェアアトリエに集うアーティスト達が展開するプロジェクト「STUDIO2O1」がある。今回は、アーティストとともに本プロジェクトに取り組んでいる宮副信也さんに、プロジェクトを始めた経緯や背景にある想いについて、話を聞いた。
子ども達とアーティストが一緒に作品を作り上げる醍醐味!
STUDIO2O1が取り組む、「Kids=Artists」のイベント
STUDIO2O1は、「アーティスト×まち」のコラボの機会を生み出し、創造的活動を通して、多様性を受け入れる社会を作ることをコンセプトとするプロジェクト。保有するビルの一画に絵を描いてもらったのをきっかけに出会ったアーティストの鈴木掌氏と一緒に、宮副さんはこのSTUDIO2O1をスタートさせた。現在、第一弾の活動として精力的に展開しているのが、「Kids=Artists~全てのキッズはアーティスト〜」と題したイベントだ。
「Kids=Artistsは、アーティスト達が子ども達と一緒にキャンバスに自由に絵を描き、作品をつくるというイベントです。前半の約2時間は子ども達が絵を描き、その後、プロのアーティスト達がタッチを加えて作品を仕上げます。ただし、作品を完成させて終わるのではなく、まちのカフェや商業施設に作品を展示してもらい、いろんな方に気軽に見てもらえるようにするまでが、このイベントの内容になります」
イベントに参加するアーティストは、鈴木さんが声がけしてくれた、作風や描き方も異なる面々。彼らの観客を魅了するパフォーマンスに宮副さんも太鼓判を押す。
「アーティストのパフォーマンスが始まると、それまでの空気が一変するんですよ。プロのアーティスト達が一斉に横並びで作品を描き上げていく様子は圧巻です。」
アート活動を通して、子ども達に自己肯定感を高める成功体験を
本業は、豊島区で70年以上続く老舗調剤薬局の経営者という宮副さん。本業とは異なる分野で、こうした活動に取り組むのには実はある理由がある。
「カナダへの留学経験を通して実感したのが、海外に比べて、日本は自分のことがあまり好きじゃないという人 が多いということです。この自己肯定感の低さに、私としては危機感を覚えました。自分を他人と比べないで自分の個性を大事にして、「自分は自分でいいんだ」と自分を好きになってもらいたい。そのためには、褒められる成功体験が必要なのではないかと思ったんです。Kids=Artistsの活動を通じて、自分の絵がまちに飾られたらうれしいし、親御さんからも褒めてもらえる。このKids=Artistsは、子ども達に対する教育プログラムの意味合いで行っているものでもあるんですよ」
一方で、Kids=Artistsが保護者にとっての子どもを褒めてあげるきっかけになってほしいとも願う宮副さん。活動の裏には、このように深い想いが込められている。
活動を1つの形にして、区内外問わず、どんどん広めていきたい
Kids=Artistsは、開催すればたくさんの親子がこぞって参加する人気のイベントになりつつあるが、これからどんな展開をしていく予定なのだろうか。
「2022年に関して言えば4回の開催を予定していて、1年終われば16枚の絵が完成します。そうしたら、できた絵を豊島区のいろんな場所に回遊させて展示したいと考えています。5月にやったイベントで描いた絵は、南池袋公園にあるカフェ「RACINES FARM TO PARK」や「Sunshine City SOLARIUM」、東京建物「Hareza池袋内パークプラザ」、池袋東口WACCA IKEBUKUROなど豊島区の施設で展示します。
一過性で終わるのではなく、絵をまちなかに展示して、子ども達が日常的に見に行けるようにすることで、本プロジェクトが完結すると宮副さん。プロジェクトの今後の展望についても宮副さんに聞いてみた。
「まずは、この1年間やりきってちゃんとした形にまとめることを目指しています。先程お伝えした子どもたちの自己肯定感を高めたり、次世代に何かで貢献したいという想いだったりは社会の根底にもあるものではないでしょうか。もしご依頼があれば、豊島区内外関係なく、求めてくれる所へ行くなど活動を広げていければと思っています」
活動を通して、豊島区が進化し続けるための原動力になっていければ
最後に、生まれも育ちもここ池袋だという生粋の豊島区民である宮副さんに、活動を通して豊島区をどんなまちにしていきたいか、地域に対する想いを聞いてみた。
「2016年に南池袋公園ができてから、池袋は劇的に変わりました。すごいスピードで正しい方向に向かっていると感じるので、この勢いが息切れせずにあと10年続けば、それで十分ではないかと思っています。
自分が引き続き活動を進めて強固な点となり、このまち全体の車輪を止めない原動力になることに注力していきたいです。今の活動が点になっていれば、その点をうまくまとめてくれる人がこのまちには存在するんですよ。点と点が結びつき線になり、そしてみんなで一緒にまちを変える力になれるのではないかと思っています」
さまざまなアート活動を通して、子ども達が自由に個性を発揮しながら、どんどん自分を好きになっていく。子ども達は、まちの未来の担い手。そんなサイクルが生まれたら、人がもっと生き生きとして、まちのさらなる活性化につながっていくのかもしれない。そんなまちの未来の種を蒔くSTUDIO2O1の活動。今後もどんなことを展開してまちを盛り上げてくれるのか、大いに期待したい。