複数の商業施設が集まった、人で賑わう池袋エリア。そんな都会と、打って変わって穏やかな住宅街の合間にある、今注目の公園をご存知だろうか?区内最大の防災機能を備えた「豊島区立としまみどりの防災公園」、通称IKE・SUNPARK(イケサンパーク)だ。一見、人々の憩いの場として親しまれているいわゆる街の公園だが、実は防災の役割も担う特別な公園なのだ。
今回は、このIKE・SUNPARKを管理している株式会社日比谷アメニスの村田尭弘さんに話を伺った。
担っているのは、“豊島区の都市開発の要”としての役割
「IKE・SUNPARKは、誰でも利用できる公共空間でありながら、開園以降スタートアップへの支援やイベントの開催など地域コミュニティづくりにつながる様々な取り組みも行ってきました。」と村田さん。
2020年には、園周辺のパトロールやごみ拾いに取り組むボランティア団体「イケサン倶楽部」が利用者主導で立ち上がるなど、まち全体を強くする都市開発の要ともいえる公園だ。
しかし、この公園には、豊島区の都市開発の要と言われるもう一つの特徴を持つ。それが「防災機能」だ。
日常時も非常時も活躍するフェーズフリーな園設計
「日常時と非常時の両方のフェーズで機能する、いわゆるフェーズフリーであること。これがIKE・SUNPARKの防災コンセプトです。」と村田さんは言葉に力を込める。
日常時には公園として誰もが利用できる場所やモノが、非常時には自分たちの身を守り、役立つモノに変わるのだ。
具体的には、IKE・SUNPARKは防災公園として有事の時間経過を発災直後、緊急段階、応急段階、復旧段階の4つのフェーズに分け、各フェーズに対応する「一時避難場所」「ヘリポート」「救援物資の集積拠点」という3つの機能を持っている。
平常時
非常時
また、まちが速やかに復興へ向かえるように、災害発生からのフローがあらかじめ設定されている点が当園の防災のポイント。故にIKE・SANPARKは、豊島区全域に物資を供給する拠点と位置づけられているのだ。
<園内のフェーズフリーな防災機能>
・かまどベンチ
→災害時にベンチの座板を開けると炊き出し用かまどが格納されている
・シラカシ
→園内に植樹されているシラカシの木々は、火災の延焼を防ぐ
・芝生広場
→園内の芝生広場は、有事にはヘリポートの着陸場所に。なお、園内は約2,500人収容可能な避難場所として機能するように設計されている
その他の設備
・72時間電力供給できる非常用発電機
・ポンプで汲み上げた水が池に溜まる防災井
・40トンの水が蓄えられている耐震性貯水槽
・地下200mから水を汲み上げる深井戸などの貯水設備
東日本大震災で変わった、人々の価値観と防災への意識
村田さんは、小学生の頃から環境問題に興味を持ち、大学時代はNPOに所属。中国でも緑化活動や災害現場でボランティアを行っていた。防災に対する意識もあった。しかし、その思考が大きく変わったのは、2011年東日本大震災の頃だった。
震災発生後まもなく、被災地の一つである南気仙沼へボランティアに向かったという村田さん。土日にヘドロの除去や家財の運び出し、月曜の朝には自宅に戻って大学の講義を受ける日々が続く中、自分の中にある想いが芽生えはじめたという。
「被災地があんなことになっているのに、自分は今何をしているのだろう。これからは、もっと身近にいる人を大切にしていきたい。」
それまでは、世界の人達のために何かをしようという想いでボランティアを行う人が大多数だった。村田さんもその一人だった。しかし、震災当時から有事の際の生き抜き方を学ぶ気運が一気に高まり、ある一つの価値観の転換が、村田さんの目の前にも訪れた。
「身近な人のために何ができるか?」
震災以来そのことを追求し続けている村田さん。
IKE・SUNPARKの防災を通して、地域のために何ができるかを考える仕事に関わるようになったのは、もはや必然のことかもしれない。
豊島区池袋―IKE・SANPARK。
時代を追って街の様相は変わっても、この場所から生まれる防災への意識や地域コミュニティの絆は、これからもきっと変わることなく続いていくことだろう。