Cleanup & Coffee Club
地域のごみ拾いをしたあとにコーヒータイムを設け、参加者同士が交流を図る「Cleanup & Coffee Club」(以下、CCC)。2022年に発足したイベントで、豊島区内9つの拠点それぞれで月に1度開催されている。地域の清掃活動というと“まちの環境を守る”ことを目的とするイメージがあるが、CCCはそうではない。ごみ拾いはあくまで手段であり、地域で友達を作ることが一番の目的だ。現在は豊島区内での活動が発展し北は青森、南は沖縄まで全国40拠点以上に広がったCCC。代表理事の高田将吾さんに、CCCの活動とまちへの思いについて伺った。
ごみ拾いは“ほどほど”。参加者同士が仲良くなればいい
CCCが発足した2022年2月は、まさにコロナ禍。これまで経験したことのない事態に、精神的な負担を抱く人は少なくなかった。高田さんの周囲では休学や休職する人が増え、自身も人と人との交流が途絶えたことに寂しさを感じていたという。「もし、自分が暮らす地域に友達がいたら……」このふとした思いが、CCCの始まりとなった。
「移動の自粛が求められている中でも、自分が歩いて行ける距離に友達がいて、外でコーヒーを飲み交わすことができれば救われる人もいるんじゃないかと思ったんです。自分が住んでいるまちにつながりが生まれれば、このまちに住んでいてよかったとも思えますよね。当時は、僕自身も寂しかったですし、実際は自分のために始めた活動なんです」
屋外かつ自宅から近い場所、さらにゴミ拾いであれば、批判リスクも最小限に活動ができるだろう。そうしてコロナ禍に始まったのがCCCだった。
「CCCは、まちで友達を作るためのストリートアクティビティ。ごみ拾いは活動の一部であって、メインではありません。ごみ拾いがアイスブレイクとなり、会話のきっかけが生まれる。体と気持ちがほぐれた状態で一緒にコーヒーを飲めば、自然と会話が弾んで友達ができるきっかけになると考えました」
取材当日は、CCCの開催日。池袋東口のグリーン大通りにあるストリートファニチャ―の前には、子どもから大人まで実に30人ほどの参加者が集まっていた。最初に行われたのは、一人一人の自己紹介。「名前」「住んでいるまち」「好きな冷たい飲み物」というお題で順番に話していく。地方から視察もかねて参加する人も多く、この日も青森から上京してきたというNPO法人の運営者や、「池袋のことをもっと知りたい」という秋田からの参加者がいた。
全員の自己紹介が終わると、好きな飲み物のジャンルで4つのグループを作り、グループごとに分かれてごみ拾いを始める。“はじめまして”の参加者が多いにもかかわらず、自然と会話を交わす雰囲気が出来上がっているのもCCCの特長だ。
「ごみ拾い自体にも、細かな工夫をしているんです。ごみ拾い活動というと各々がトングとゴミ袋を持ってゴミを拾うことが多いと思うのですが、CCCでは必ずグループで動く。そして、ごみ袋を持つ人、トングを持つ人を分けています。そうすると、自然とごみの受け渡し時に『ありがとう』『お願いします』といった会話が生まれるんですよね。何もないところから話し掛けるのって、なかなか勇気が要りますから」
ごみ拾いを行った時間は、約20分。一般的なボランティア活動に比べてかなり短いが、それでも「ちょっと長かったですね」と話す高田さん。なぜなら、CCCの軸はあくまで友達作り。ごみ拾いに一生懸命になりすぎると、CCCがもつカジュアルな空気感は生まれないのだ。
ごみ拾いの後は、各自持参したマイカップでコーヒータイム。わずか20分の間に参加者同士の雰囲気はさらに和やかなものとなり、コーヒー片手にいくつもの輪が出来上がっていた。そして、写真撮影を行い、参加者が関わるイベントなどを告知し合って終了。スタートから約1時間。参加者に疲れを感じさせない時間配分も、運営メンバーの発想なのだろう。
リモートで居心地のよさは作れない。他エリアのCCCもまずは豊島区から
代表理事の高田さんと、同じく代表理事を務める夏井 陸さんの二人で発足したCCC。2022年2月の開催を皮切りに、わずか2年で活動拠点を全国区まで広げた。豊島区内での認知度が急激に高まったのは、「としま会議」での登壇。そして、全国へと広げるきっかけをつくったのは2023年4月からメンバー入りした理事の伊東 裕さんだ。
「伊東くんは埼玉県杉戸町でCCCを展開し、そこから一気にのれん分けが広まりました。豊島区ではない別の地域にてCCCの活動がどのように育まれているかをよく知るのは、伊東くん。他の地域でCCCをやりたいという人にそのノウハウを共有したり、活動のフォローをするのが彼の役目でもあります」
現在は「CCCのはじめかた/活動ガイドライン」を公式サイトに掲載し、誰でも気軽に始められるノウハウを公開している。しかし、CCCが大切にしているのは対面でのコミュニケーション。ノウハウを伝播するだけの単純な広め方はしたくないという。
「参加しなければCCCのノリや空気感は理解できないし、僕らが思い描いているかたちとは違ったCCCになってしまう可能性もあります。それに、オンラインだけで済ませてしまうと僕らも各拠点への愛着が湧かないですし。双方にとって得がないと思うんですよね。だから、運営を希望する人には、一度は必ず豊島区内の拠点で参加してもらうことにしています。また、発足当初から徹底しているのが、活動後の振り返り。各拠点の全運営者がオンラインチャットの中で問題点や改善点を出し合い、他の拠点の運営者も見られるようにしているんです。他地域での工夫を自分の地域に活かすことができたり、一つのアイデアとして参考にしたり。CCCの『いかに気持ちのよい空間をつくるか』というの目的に向けて、みんなで創意工夫を重ねています」
地域で活動する人を応援! CCCカルチャーがまちづくりの仕掛けに
「地域で友達を作る」ためのコミュニティであり、上下関係もなければ熱意を求められることもない。その“ゆるさ”があるから、隔てなくコミュニケーションが取れる。アーティスト・作家さんとコラボレーションしたアートワークを発信する「Cross Culture Calendar」、CCCの参加者が出店にチャレンジする「C-change Project」といった企画も、ラフに会話ができることで生まれたアイデアだ。
「CCCには友達を作ることに加え、もうひとつ目的があります。それは、地域に住む人を応援すること。『Cross Culture Calendar』は夏井くんのアイデアで、“ごみ拾い”と“コーヒ”ーと“朝”という3つのハッシュタグだけでは届かない人にもCCCを知ってもらうために始めた企画です。僕らが応援したいと思うアーティストさんにCCCの活動を絵にしてもらい、カレンダーやポストカードにして配布。カレンダーにはQRコードをつけていて、アクセスすると豊島区内の支援情報が一覧で見られるようになっています。このまちには助けてくれる人がいるということを知ってもらうためでもありますし、周りで困っている人がいたらカレンダーを渡してほしい。さり気ない思いやりのきっかけになればと思って続けています。『C-change project』は、“地域で活動をはじめる人を応援したい”という思いで始めたプロジェクト。そのひとつが、伊東くんの始めた『逆スナック』です。店主の悩みをお客さんに聴いてもらうという企画で、CCCとは別の形ではありますが、CCCと同じ地域に居場所をつくるすごく素敵な活動だと思っています。」
CCCの役割は、まちの美化ではない。けれど「豊島区をもっと良いまちにしたい」という思いは強く、まちづくりに必要な要素が活動の随所に感じられる。
「自分の住む地域を大切にしながら、手の届く範囲での応援をしたいというのが運営するメンバー全員の想いです。ありがたいことに、CCCスタートから1年と経たずに豊島区のサポートをいただくことができました。一方で、所詮僕らの活動は“手の届く範囲”ですから、豊島区全域に価値が届けられる活動にはなれてはいません。ですから、今後は地域企業や団体とコラボレーションし、より大きなインパクトを地域に届けていきたいんです。おそらく、CCCは企業の皆さんが地域とつながる最初の一歩としてもうまく活用できる仕組みだと思います。そうして、より多様な人が地域と関われば、もっともっとよいまちに成長していくんじゃないかなと思っています」
近所に友達が欲しい、池袋のまちをもっと知りたい、時間を有効に使いたい。参加の動機はさまざまだが、自然と会話が生まれて仲間になっていく動きは確かにあるという。また、CCCが提供してくれた“よい時間”を、今度は自分の手で提供していきたいと別の地域でCCCを立ち上げる参加者も増えている。「地球全体を救えるわけではない」と話す高田さんだが、“居心地のよい場所をつくりたい”という優しい思いは、確実にこのまちで広がりを見せている。そしてそれがバトンとなり、豊島区から日本全国へとリレーのようにどんどんつながれていくのだろう。
文:濱岡操緒 写真:北浦汐見