Cycad Brewing(サイカドブリューイング)
2023年4月、要町駅と椎名町駅の間にオープンしたクラフトビールブリュワリー。“スムース&クリーン”をテーマに造られる多様なビールを、タンクを眺めつつ飲めるタップルームは居心地抜群だ。今年4月にはアメリカンスタイルのBBQ料理が味わえる「PHAT Q」もオープンし、ますます盛り上がる予感。オープンから1年ちょっと。マネージャーの植松康佑さんは豊島区とクラフトビールの相性の良さを感じ始めているそう。はたしてその理由とは?
SMOOTH&CLEANの硬派なビール
「Cycad Brewing」は3人のビアメンによって立ち上げられた醸造所。もともとここでブリューパブ「スナークリキッドワークス」を営んでいた藤浦一理さんのもとに、幡ヶ谷のビアパブ「グレムリン」オーナーの戸原寛允さんと、間借りの醸造所「STYLE BREW WORKS」として活動していた植松康佑さんが参加。植物のソテツを意味する「CYCAD」と名付けてスタートした。
ビールのテーマは“スムース&クリーン”。スタイルごとに味の個性はしっかり、飲み心地はすっきり。特に定番のものはなく、月に4回新しいビールを仕込む。
「最近はヘイジーという濁りのある濃厚なスタイルのビールが人気なんですが、うちはヘイジーであってもすっきりさわやか。ベタベタとして甘いようなビールはないですね。硬派なビールというか、チーム全員そういう味わいが好きなんです」
この日つながっていた11タップの中から、植松さんが一番サイカドらしいとおすすめしてくれたのが「ルートダウン」。3種のホップが甘くフルーティに広がったあと、サッと爽快にキレていく絶妙なバランスだ。また「ポー太郎」シリーズはとてもユニークで、とっつきにくいイメージのスタウトやポーター(暗めの色のエール)をもっと楽しんでほしいと、塩キャラメルやラズベリーといったフレーバーを合わせている。「ポー太郎」は黒いクマ? 犬? のようなキャラクターにもなっていて、オリジナルステッカーもかわいい。
ちなみに醸造長の藤浦さんは日本人で唯一、全米一のホームブルーイング賞を受賞した経歴を持つレジェンド的存在。特に海外では知名度が高く、サインや写真を求めて会いにくる熱狂的ビアファンもいるそうだ。
ビール×アート×BBQ。3つのカルチャーが混じり合う
ブリュワリーにはタップルーム以外にも、新進気鋭のアーティストの展示をするギャラリースペースや、BBQチーム「PHAT “Q”」を併設。ビール・アート・BBQといった3つのカルチャーが一緒に楽しめるのはほかにはない魅力。
「展示を観に来た人がビールを飲んでくれたり、逆にふらっと飲みに来てくれた人が展示を観てくれたり。そういう交わりがいいなと思います。近くに創形美術学校があるんですが、この秋はここで卒展をやるかもしれなくて、今から楽しみにしています。『PHAT “Q”』はもともとポップアップだけで活動していたので、いつでも食べられる場所ができたのはうれしい。すでに大人気で、海外のお客様が何パウンドもお肉を食べて行ったりしていますよ」
裏に設置されているBBQ用の巨大なスモークチャンバーは特注品。BBQの仕込みは長時間勝負で、たとえば週末限定のブリスケットは12時間もかけて火入れするそうだ。ちなみにサンドに使うほんのり甘い「テキサストースト」というパンも自家製。本場の味にとことんこだわったBBQは、言うまでもなくビールと最高に合う。お肉は1/4パウンドからテイクアウトすることができるし、サイカドのビールもまもなく缶や量り売りを開始するということで、この夏はお家でBBQパーティを開くのもいいかもしれない。
豊島区はクラフトビールのまちになるポテンシャルがある!
もともとクラフトビールの醸造所や関連の飲食店が多い豊島区。ゆったりとした空気感もあいまって、ビールとの相性がすごく良いまちなのでは? と感じている植松さん。
「このエリアで働いて暮らすようになって、思ったよりも良い意味でのゆるさがあるまちだと思いました。池袋は大きい駅だけど、人がせかせかしていないんです。クラフトビールもゆっくりと味わって飲むものなので、まちの空気感とぴったりハマるんじゃないかと。すごく住みやすくて、豊島区から出なくなりましたね」
またクラフトビール業界の格好いいところは、一緒に上がっていこうというスタンス。お互いに醸造方法をシェアする文化があり、サイカドがオープンした時には目白の「Inkhorn Brewing」や西池袋の「Two Fingers」がお客さんを紹介してくれたという。
この夏は8月に池袋西口公園で開催される「としまビールフェス・アニソンフェス」に出店するなど、地元の飲食店で出張ビール屋さんをする機会も増えるそう。つながりを広げていき、いつか豊島区を「クラフトビールのまちにしたい」と植松さんは話す。
「ずっと西口公園でイベントがやりたいと思っていたので楽しみにしています。またせっかく周りにクラフトビールの醸造所やお店がたくさんあるし、良い銭湯もあるので、スタンプラリーイベントなどやりたいなと考え中。この奥池袋からクラフトビールのまち計画を進めたいと思います」
文:井上麻子 写真:立花 智