X TRAIN TOKYO
もし「パルクールは危険なパフォーマンス」と思っているなら、それは大きな誤解。“移動の芸術”という別名を持つパルクールは、走る・跳ぶ・登るなどの移動動作を自分で組み立てることで、身体能力と創造力を鍛えることができる、とってもクリエイティブな運動なのだ。今回はそんなパルクールを学べる教室「X TRAIN TOKYO パルクール教室」について、主宰であり日本パルクール協会会長も務める佐藤惇さんにお話をうかがった。
パルクールは身体と創造力を鍛える“外遊び”の延長
離れた場所に飛び移ったり、高い壁をよじ登ったり……一般人にはできない超絶技巧な動きを繰り広げるパルクール。しかしその本質は、昭和の子どもたちが当たり前にやってきた「外遊びの延長」なのだと佐藤さんは話す。
「A地点からB地点までをどう移動するか。それを考えて実践するのがパルクールです。決まった型はないので、走ったり、跳んだり、登ったりと動き方は自由。身体能力が伸びるのはもちろん、自分で考えることが発想力や創造力を鍛えることに繋がります。実はこれ外遊びと同じなんです。そこにあるものでどう遊ぶかと考えたり、高いところからジャンプしたら足が痛いことを学んだり、色々な感覚を養えるのが外遊び。最近は外遊びをする子どもが減っていますが、パルクールを通して外遊びを復興したいと思っています」
“外遊びの復興”というキーワードで意気投合したのが、西池袋にある「ニシイケバレイ」のオーナー・深野弘之さん。「いつか敷地内の私道を子どもが遊べる場所にしたい」という深野さんの想いに共感した佐藤さんは、パルクール教室「X TRAIN TOKYO パルクール教室」を深野さんご協力の下に開校することに。毎週土日のみで、体験・基本・応用などレベルに合わせてさまざまなクラスを開設。大人が参加できるものもあるが、メインの生徒は小学生だ。
「ゴールデンエイジと言われる幼少期にパルクールをすることで、身体能力や筋肉をバランス良く伸ばすことができます。また子供たちが運動に価値を見出さなくなっている現状や、彼らが抱えるメンタルヘルスの問題も解決したい。創始者であるパルクール集団・ヤマカシの直伝の教室は日本で僕たちだけなので、子供たちにはパルクールに込められた精神も一緒に伝えています」
危ないからやらないではなく、どうすれば危なくないかを考える
教室があるのは集合住宅の2階部分にある外のテラス。遊具のような装置が配置されていて、子どもならすぐに遊び出したくなるような空間だ。体験クラスで最初に挑戦するのは、1本のパイプを渡ること。やってみると普通に歩いて渡るのも難しい……これができるようになるだけでバランス感覚がワンランクアップする気がする。
「どこから始めてもいいし、横向き後ろ向き、逆立ちでもジャンプしても渡り方は自由です。『この一本橋をどう渡るのか』ということを自分なりに考えてやってみること、というパルクールの基本概念を覚えてもらうためのステップです」
教室は外なので風もあり、床にはマットがないので転ぶとちゃんと痛い。もしもの怪我を防ぐようにできた空間ではなく、現実世界に近いこの環境だからこそ、より安全に身体を動かす方法を学ぶことができると佐藤さんは語る。
「パルクールは無茶をするのではなく、安全に正確に動くことが大前提です。安全に動くためにまず自分がどこまで動けるのかを知り、簡単な動きから段階的に精度を上げていく。そうすることで身体はどんどん自由に動けるようになっていきます。子どもたちは爆速で変化していきますよ。ほかのスポーツと違って動作にルールがないからこそ好奇心が湧くし、『どうしたらこの動きができるんだろう』と自分で研究し始める。誰かに強制されたことじゃなく自分がやりたい動きをやることが楽しいし、結果的に彼らの可能性を広げていくんだと思います」
お気に入りの練習場所はサンシャインシティ
佐藤さんの地元は杉並区。自分が豊島区で拠点を持つとは思ってもみなかったが、サンシャインシティは昔からお気に入りの練習場所だったそう。
「初めて来たのは2008年ごろかな? いつも街中で練習場所を探していたんですが、サンシャインシティの周りがすごく良くて。いまもたまにトレーニングしています。池袋には昭和の名残があっていいなと思います。最近のミニマルなデザインの場所は障害物が少なくて、パルクールの練習には向いていませんが、ひと昔前のビルや団地、アパートは少しデザインが複雑で、動きを考えるのが面白いんです」
ゴールデンウィークには「IKEBUKURO LIVING LOOP × Sunshine City PLAYPARK2024」にも初出店し、パルクール体験ブースを実施。これまで知名度の低さや安全面へのネガティブな印象と戦いながらパルクールを普及してきた佐藤さんにとって、池袋でパルクールを発信できることは感慨深いという。
「池袋のような大きなまちで教室を持ったりイベントに出たりできるということは、パルクールが認められてきた証拠かなと思います。僕個人が小さく活動することは簡単だと思うんですが、大きな場所でたくさんの人の前でできることがうれしい。ようやくという感じでしょうか。本当に御縁に感謝しています。これからも豊島区のいろんな子どもたちに会いたいし、まちのいろんなところでパルクールをしたいですね」
文:井上麻子 写真:北浦汐見