特定非営利活動法人 サンカクシャ
子どもの貧困が問題視される昨今、行政やボランティア団体などによる支援や取り組みは多岐にわたる。一方で、行政からの支援が途切れがちな義務教育修了後、15歳以降の若者が親や身近な大人を頼れず孤立してしまう現実もある。「サンカクシャ」はそんな若者たちを応援し、居場所や社会とのつながりを提供する特定非営利活動法人だ。「目の前にいる一人の若者と向き合うことで、支援のかたちがつくられていく」と話すのは、代表理事の荒井佑介さん。サンカクシャのこれまでの取り組みと今後の展望についてお話を伺った。
失敗しても、駄目でもいい。15歳から25歳の若者にこそ支援の手を
家に居場所がない、頼る大人がいない……それぞれが抱える背景で孤立する若者たち。サンカクシャでは、そんな彼らに「居場所づくり」「仕事」「住まい」という3つの仕組みを通して“社会サンカク(参画)”をバックアップする活動を行っている。設立のきっかけは、荒井さんの学生時代までさかのぼる。
「大学時代に中学生の学習支援ボランティアに参加したのですが、高校に入学しても中退や妊娠でつまずいてしまったり、働いても続かなかったりという子が多かったんです。そして、そういう子たちほど頼る人がいない。そこで気付いたのが義務教育修了後、15歳から25歳の若者へのサポートが十分ではないということでした。親や身近な大人を頼れない若者が社会で生き抜いていくために、必要なものがそろうコミュニティをつくりたい。それがサンカクシャ設立のきっかけです。『サンカクキチ』『サンカククエスト』『サンカクハウス』を軸に、若者の生活基盤を支える活動を行ってきました」
【サンカクキチ】
安心して過ごせる場、地域の大人と交流できる居場所。ゲームや漫画、ゲーミングPCなどがあり、夕食の無料提供もある。
【サンカククエスト】
地域企業から仕事の依頼を受け、若者に働く機会を提供。働く自信を身に付けるためのサポートを行う。
【サンカクハウス】
月4万5千円で住めるシェアハウス。食事や生活、仕事など、自立に向けたサポートも同時に行う。
「サンカクシャの活動のハブとなるのが『サンカクキチ』。支援を必要とする若者なら誰でも利用可能ですが、登録制を採用しているので安心・安全も担保されています。また、自由に過ごせる場所であると同時に相談窓口でもあるんです。スタッフや地域の大人と交流しながら信頼関係を築くことで相談することへのハードルを下げ、そこから住まいや仕事という次の段階のサポートへとつないでいきます」
仕事体験を通して誰かの役に立つ喜びや経験値、人とのつながりを得ることを目指すのが「サンカククエスト」。協力企業は30社にも及び、若者の雇用にも積極的だという。
「アルバイトで採用してもらっても、すぐに辞めてしまう子も少なくありません。応援してくれる企業側にとっては負担の大きい話なのですが、それでも『失敗してもいいよ』と何度も仕事を提供してくれる。本当にありがたいですよね。そんな失敗が許される環境や大人が増えることも、私たちが望む社会なんです」
サンカクシャ設立から5年目。ここまで活動を広げることができたのは、荒井さんやスタッフの熱意に加え応援してくれる大人がたくさんいたからこそ。
「サンカクシャの成長には、二人のキーマンの存在も大きいんです。一人は、サンシャインシティの安田さん。われわれが『オトナリサン』と呼ぶ個人のサポーターとしても活動してくれていますし、ネットワークが広いので地域の方とのパイプ役としてもお世話になっています。もう一人は、安田さんにご紹介いただいた近代産業株式会社の三村社長。物件を紹介してくれたりアルバイトとして若者を雇用してくれたりするだけでなく、個人でお米1.8トンも寄付してくれたんですよ!」
とことん向き合うことで「こんな大人もいるんだ」と知ってほしい
自信を失ってしまった若者たちに『駄目でもいいんだ』と思ってもらうこと。それもまた、サンカクシャが彼らに届けたいメッセージのひとつ。難しい年頃の子も多いからこそ、進路や仕事ばかりに集中するような「支援のにおい」は出さず、自然な人間関係を大切にしているそう。
「スタッフはギターを弾いたり若者と一緒にゲームをしたり、好きに過ごしているように見えるので端から見ると仕事をしていないように映るかもしれません。でも、そのフランクさが若者との距離を縮めることにもつながります。一緒に同じことをして、同じ土俵に立っているという歩み寄りが大事なんじゃないかな。それと、若者が抱く大人のイメージを極力感じさせない。人間誰しも駄目な部分はもっているもので、それを隠すのが大人としてのスキルでしょう。けれど、そういう部分こそちゃんと出すんです。『大人でも駄目な部分があるんだ』と感じれば、大人に対するハードルを下げることができるかもしれない。そうやって接していくうちに、なかなか心を開いてくれなかった子がポロッと相談してくれることがあるんですよ」
サンカクシャの活動は口コミで広がり、行政からの依頼だけでなく病院や大学などからの依頼、直接ここを訪ねてくる若者も増えているという。しかし、支援につながらない若者がまだまだ多いのも現状だ。
「自分から相談しようとか、困ったときに誰かを頼ろうと思えないと、支援から取りこぼされてしまうんです。申請しなければ支援につながらないという『申請主義』は、日本の福祉の問題点でもあります。だからこそ、SNSなどを使ってこちらから情報発信していくことも心掛けていることです。でも、ギリギリの状況になってから相談する子が多くて……もっと早い段階で手を差し伸べることができればと歯がゆく思うことがあります」
東京にこだわらなくていい。安心できる居場所を一緒に見つけていこう
若者一人ひとりと向き合うことで、必要な支援が見えてくることもある。そのひとつが、今年の4月からスタートした「ヨルキチ」。サンカクキチを月2回、夜の居場所がない子、夜の時間帯に後ろ向きになってしまう子のために、22時から翌朝5時まで開放している。「池袋駅近くや繁華街に居場所をつくること、シェアハウスを増やすこと……やり遂げたいことはまだまだある」と話す荒井さん。なかでも、特に力を入れたいのが地方拠点の開拓だ。宮城、福島、千葉、埼玉、岐阜、三重、愛媛、徳島……サンカクシャを応援する多くの人の紹介で、つながりはどんどん広がっている。
「サンカクシャに来る若者の4割くらいが、地方出身です。地元が嫌で上京したはいいものの、東京には知り合いもいないし仕事も簡単には見つからない。ネットカフェや路上で生活する選択肢しかなくて、精神的に苦しくなってしまう子が多いんです。そういう子たちを地方に連れて行き、農業や自然に触れるような職業体験をさせています。東京より人の少ない土地が肌に合うと感じる子も多いので、地方で働いて生きていけるモデルをつくりたい。地方で職業体験をすると、『ここなら働けるかも!』と目を輝かせるんです。そんなに甘くはないぞと思いますが(笑)。でも、その小さな成功体験の積み重ねが自立への一歩につながると思いますから」
口コミや支援者のサポート、そして目の前にいる若者によってたくさんの活動のかたちをつくってきたサンカクシャ。“若者が社会に合わせるのではなく、社会が若者に合わせる”寛容で柔軟な社会に変えていくことも、サンカクシャが目指す未来像だ。池袋から発信し続けてきたその思いは今、日本全国に届きつつある。
文:濱岡操緒 写真:北浦汐見