HIRAKU IKEBUKURO 01/SOCIAL DESIGN LIBRARY
「窓業界のプロデューサー」として、ガラス卸販売やガラス製造加工、地域企業のサポート事業を主とするマテックス株式会社。環境問題や社会貢献活動にも積極的に取り組む同社が、他3社との協働プロジェクトとしてスタートしたのが「HIRAKU IKEBUKURO 01/SOCIAL DESIGN LIBRARY」(以下、SDL)だ。「美術館のようなライブラリー」を特徴とし、本の閲覧のみならず、訪れる人の“知”を更新させるさまざまなコンテンツを展開している。2023年5月、池袋に誕生した新たなサードプレイスについて、マテックス株式会社・経営企画部の戸口直哉さんと岩﨑美紗子さんにお話を伺った。
“中村陽一教授の蔵書活用”というひらめきが旗揚げの契機に
窓専門の商社であるマテックスには、「窓から日本を変えていく」という大きなビジョンがある。持続可能な暮らしへのシフトと地球環境を取り戻し、豊かな社会づくりを目指す取り組みの一つとしてSDLを拠点とするプロジェクトが始まった。そもそも、どのような経緯でこの施設をオープンさせることになったのだろうか。
「立教大学の中村陽一教授と、弊社をつないでいただいたのが『豊島区のお助けマン』ともいえるNPO法人としまNPO推進協議会の代表理事を務める柳田好史さんでした。私たちが「サードプレイスをつくりたい」と言っていたところに、中村先生の蔵書を活用させていただき、学びの場、地域に開ける場をつくりましょうと話が盛り上がり、実現したのがこの場所なんです」(戸口)
築30年、2階建ての自社倉庫をリノベーションした、ソーシャルデザイン・ライブラリー。従来の図書館と異なる特徴の一つが、本の貸し出しはしないこと。そこには「本を通じて人との出会いが生まれ、インキュベーションを起こしたい」という思いが込められている。
「SDLは交流棚・展示棚・探究棚という3つのカテゴリーに分かれていて、全部で7つの本棚があります。中村教授の蔵書からテーマをセレクトして企画する常設展示・企画展示・サブ展示をするシリーズ展示とアート&カルチャー展示、まだ未完成ではありますが、SDLに賛同するパートナーが寄贈する『TSUKURU本棚』には100通りの“ひらく”がテーマとなった本を並べる予定です。本との多様な接点から、新たな交流が生まれるような仕組みにしています。だから、あえて本の貸し出しはしない。ここに来て、読んでいただきたいんです」(戸口)
「書棚の1区画を借りた方がオーナーで、オススメの本を販売する『HIRAKU書店』も、7つの本棚の一つ。オーナーさんそれぞれに好きな“世界”があって、自己表現の場にしている方も多くいらっしゃいます。書棚には弊社の交流棚もあって、社員同士で本の貸し借りもしているんですよ」(岩﨑)
人々が集いたくなるようなひらかれたサードプレイスに
柔らかな木の香りに包まれ、大きな窓から差し込む光が開放的な空間。SDLの視覚的な特徴として挙げられるのが、マテックスがこだわったガラス展示を兼ねた内装だ。人々の関心を引くデザイン性の高さも、SDLの魅力の一つだろう。
「マテックスは窓の会社ですから、社長の松本が一番こだわった部分でもあるんです。イベントに合わせて可動できる間仕切りには、昭和のレトロガラスを『cycle glass(サイクルグラス)』としてリユースしています。20年以上前に製造中止となった貴重な型板ガラスで、一枚ずつ模様が異なるので、それを見に来るのも楽しいと思います」(岩﨑)
「2階は、SDLに賛同してくださるパートナーのみなさんのシェアオフィスとラウンジになっているのですが、その一角に弊社が提唱する『madolino』を体現した展示があります。madolinoとは『窓ごこち=窓辺で過ごす心地よさ』を意味する弊社独自のブランド。窓枠が木製の内窓を設置した読書空間に仕上げました。廃棄されてしまうガラスをリユースし、もともとの天井や床の素材を生かした内装は、弊社が目指す循環型ビジネスモデルの構築にもつながると思っています」(戸口)
SDLについて語るお二人は、まるで子を思う親のよう。戸口さんと岩﨑さん、それぞれSDLの“お気に入り”はあるのだろうか。
「2階のmadolinoの棚には1カ所、机が出せる仕組みが施されているんです。ここで本を読みながらコーヒーを飲むこともできます。自宅にもほしいなと思うほどお気に入り。オフィスとして利用していただいている方とのコミュニケーションも、私の癒やしの時間になっているんです。ここに来れば誰かに会える、誰かと話したいからここに来る。ここを訪れる方にも、そんなふうに感じてもらいたいですね」(戸口)
「HIRAKU書店が私の推しスポット。どんな世界とも出会えるんです」(岩﨑)
誰もが“ワクワク”を感じられる場所にしていきたい
戸口さんと岩﨑さんがともに願うのは「HIRAKU」という名の通り、ここが開かれた場所として成長していくこと。バラエティに富んだイベントを定期的に開催し、誰もが楽しめる場所づくりに取り組んでいる。
「ガラスと本がテーマの施設なので、好きな絵本のシーンをガラスにお絵描きする子ども向けのイベント、朗読劇やミニほうきのワークショップなどを開催しました。オープンしてまだ間もないため、告知が追い付いていない部分はあったのですが、予想以上にたくさんの方からお申し込みをいただき、大好評だったんですよ。10月には岩手県陸前高田市のNPO団体に協力していただいて、マルシェを開催する予定です」(岩﨑)
「もちろん、ソーシャルデザインに関心のある方や携わる方向けのイベントも開催しています。中村教授がモデレーターとなり、企画展と連動したトークセッションなども行いました」(戸口)
たくさんの可能性を秘めたSDL。最後に、学びと交流のスペースとして、これからどのようにしてまちと関わっていきたいと考えているのだろうか。
「私は、豊島区にある会社の社員同士が交流できるハブのような存在に成長させたいと思っています。松本が※チームとしまの理事でもあるので、チームとしま内の学びの場としても連携してまちと関わっていきたいですね。12月からは、いよいよビジネススクールが開校予定。豊島区で働くビジネスパーソンが勉強できるスペースにしたいというのは兼ねてからの夢だったので、楽しみですね」(戸口)
※チームとしま:豊島区の区制90周年を機に発足した企業実行委員会で形成されたつながりを、100周年に向け、改めて継承し発展させることを目的としたプラットフォーム。
「ソーシャルデザインを知らない方でも、『何があるんだろう!?』とワクワクを感じられるような空間にしたいですね。まずはここに来て、知ってもらうところから始めています。このまちで働く方が地域に住む方と関わったり、異業種の方との出合いの場になったり。SDLに賛同してくださるパートナー、地域住民、ビジネスパーソンなど、みんなの思いがかなう場所にしていくことが、われわれメンバー全員に共通する目標です」(岩﨑)
文:濱岡操緒 写真:北浦汐見