未来型ライブ劇場 “harevutai”
「人生で一番最高の晴れ舞台を」をテーマに掲げ、2019年11月にオープンした未来型ライブ劇場「harevutai(ハレヴタイ)」。“未来型”という謳い文句の通り、劇場内にはCGライブを実施できる透過スクリーンや、配信サイト向けのライブ配信設備を常設しており、最新技術が盛りだくさん。日々若手アーティストやアイドル、VTuberによるライブや、記者会見、新商品発表会、社員総会などが行われている。そんな「harevutai」全体の企画・運営・プロデュースを担当する、株式会社ポニーキャニオンの佐藤正朗(さとうなおあき)さんに、施設が誕生した経緯や池袋のまちとの関わりについて、お話を伺った。
ワクワクする仕掛けが満載の“ライブ劇場”
「TOHOシネマズ 池袋」やさまざまな専門店が入った「Hareza 池袋」など、再開発で誕生した新しい商業施設が集まるエリアにある「harevutai」。レコード会社であるポニーキャニオンが初めて運営するライブ劇場だ。
中に入るとすぐに、ライブハウスらしい広いドリンクカウンターが目に入る。しかし、「harevutai」は“ライブ劇場”と名乗っているように、ただのライブハウスではない。その秘密に迫るべく、「harevutai」全体のプロデュースを務める佐藤さんに、劇場内ツアーをしていただいた。
スタンディングで最大500人が収容できるホール内には、音楽ライブだけでなく幅広い用途に対応するための最新の音響・照明・映像設備が揃っている。
ステージ前方に設置されたCGライブ用の透過スクリーンは、2019年のオープン当時「harevutai」が日本で初めて常設したもの。ステージに人が立った状態で桜が舞う映像を映すと、実際に人の上に桜が舞っているように見える。舞台奥に設置された巨大なLEDモニターには4Kで映像投影ができ、透過スクリーンと組み合わせると表現は無限大だ。
「音楽にあわせてさまざまな演出ができますし、VTuberさんやVライバーさんのライブ会場として使いやすいと好評です。以前、超有名芸人のお二人がここで単独ライブをしたときは、映像で映し出されたご本人が登場して3人で漫才をするなど、最新の映像技術を駆使していろいろと遊んでくださって、すごく嬉しかったですね」
さらに、通常のライブハウスにはない配信機材を常設しているのもポイント。今でこそ広く普及したライブ配信だが、コロナ禍前のタイミングで配信設備を揃えていたというのがすごい。
「当時はまだ『配信で観る人なんているの?』という感覚でしたし、僕自身も配信設備にお金をかけるより、ライブ用の機材や楽器などを一式揃えてステージで使ってもらえたらいいなと考えていたんです。でも今は、配信をすれば世界中の人に観てもらえるチャンスがある時代というのも理解してきました。『harevutai』の限られたキャパシティを考えると、より多くの方に興味を持ってもらうためにも配信設備を入れた方がいいよね、という考えに変わったんです」
今は日本では芽が出なくても、他の国では人気が爆発するアーティストたちがいることも踏まえ、“配信ができる劇場”であることを強みにする方向に。もともと機材庫の予定だったスペースを配信作業用の部屋につくり替えたのだそう。
池袋の「harevutai」から、未来を担うアーティストを
「harevutai」のプロジェクトが動き始めたのは、2015年頃のこと。豊島区が「国際アート・カルチャー都市」実現のために始めた都市開発がきっかけで、「Hareza池袋」を起点に池袋のまち全体を盛り上げていくプロジェクトがスタートした。
「秋葉原が男性オタクの聖地なら、池袋は若い女性のオタクの聖地にしていきたい」。そんな当時の豊島区長の言葉を受け、サポートとしてプロジェクトに参画した佐藤さんが企画を考案。10〜20代の女性をメインターゲットにした「harevutai」のコンセプトや、会場内の構成をつくり上げていった。
「最低500人というキャパシティは死守したかったんです。運営側の事情もありますが、一番はメジャーデビューを匂わすことができる規模感にしたかったから。アーティストにとって、会場のキャパシティは自身の成長を表現するバロメーターであり、モチベーションにもなるんですよね。たとえば、渋谷の『Spotify O-WEST』というライブハウスはキャパシティが約600人で、若手バンドの一つの登竜門のような存在になっています。『harevutai』のステージを通過したアーティストたちも、さらにステップアップして未来を担う存在になってくれたら最高だなという思いのもと、劇場内の細かな部分にまでこだわりました」
実は、佐藤さん自身もポニーキャニオンに入社する前は音楽活動をしていた元バンドマン。アーティスト視点での「こうであってほしい」が、ステージの広さや搬入経路、トイレの数に至るまで随所に散りばめられているのだ。
“ここでしか観られない”コンテンツを生み出していく
そうして、プロジェクト開始から約5年の月日をかけてオープンした「harevutai」。直後に新型コロナウイルスの波が押し寄せ、大きな打撃を受けながらも、最新鋭の音響設備で無観客配信ができるこの劇場は、たくさんのアーティストに選ばれた。3周年を迎えた今も、連日若手アーティストやアイドル、2.5次元俳優などのライブが開催されている。
「店長であるスタッフが、主催者の方々との関係性を築いてくれていたので、リアルでライブができるようになってからも、リピーターで使ってくださるケースが多いんです。おかげさまで、土日祝日の予約は1年後まで埋まっていますね」
透過スクリーンとLEDの組み合わせで、人の動きに合わせペイントしている様子や、ガラスが割れたような演出ができる「harevutai」だが、最近ではライブだけでなく、CM発表会や企業の社員総会、豊島区のイベントなどさまざまな用途で使われているのだそう。昨年は岩手県・陸前高田市の三陸花火大会と、池袋の「harevutai」をリアルタイムで繋いで、アーティストの演奏と映像を双方で楽しめる取り組みをするなど、コラボレーションにも力を入れている。
「隣接するアニメイトさんやTOHOシネマズさんなどとも上手く連携しながら、アニメやマンガの聖地である池袋により特化した取り組みもしていけたら」と、語る佐藤さん。最後に今後の展望を聞いてみた。
「素晴らしいスタッフたちがいて、運営の地盤が固まってきたので、これからはようやく『harevutai』のコンテンツづくりにシフトできるかなと思っています。たとえば、この劇場所属の男性アイドルグループや劇団を立ち上げて、ゆくゆくは彼らが上の『東京建物 Brillia HALL』に進出する、というストーリーがつくれたら、僕としては最高ですね。そのためにも、ここでしか観られないコンテンツをつくっていきたい。今後はとにかくいろいろ実験してみたいなと思っています」
文:むらやまあき 写真:北浦汐見
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。