学校法人髙澤学園 創形美術学校
池袋西口にある創形美術学校は、ファインアート科とビジュアルデザイン科からなる、3年制の専門学校だ。1階にはギャラリーを持ち一般観覧が可能。さらには池袋にあるスターバックスやGUに作品を展示できるチャンスが用意されていたり、一般向けの体験講座が用意されていたりと、学校全体でまちと深く関わっている。
今回は講師である田中北斗さんと学生に、学校のこと、池袋との関わりについて話を伺った。
講師は現役のクリエイター。性格を理解するほど近い距離に
創形美術学校は、アートとデザインの専門学校。学校法人髙澤学園の中に、すいどーばた美術学院という予備校と、創形美術学校という専門学校がある形であった。最初は絵画造形科と版画科のみだったが、デザイン科が作られ数年後、2000年に池袋へと移動。目白にあった予備校と学園としてひとつになるということ、池袋の地の利の良さから池袋という土地が選ばれたようだ。
この学校の特徴のひとつが、講師がプロのクリエイターであるということ。そして少人数制で近い距離で接しているから、これまでの作品や性格を鑑みた上で制作の指針を示してくれるという。
「僕自身も美大受験して、二浪するかしないか迷っているときにうちのデザイン科ができて受験したんです。選ぶときの基準はやはりプロの方が教えてくれるっていうところでした。今でこそ学校に有名クリエイターがくるというのはありますけど、当時はその先駆けでしたね。実際入ってみて、課題がひとつ終わるごとにプロの方とお話しする機会があるというのは、授業だけど授業じゃないみたいな感じでした」
「豊島区国際アート・カルチャー特命大使」として。まちと関わる学校
講師との距離だけでなく、まちとの距離も近いのがこの学校の特徴。豊島区は芸術・文化の国際創造都市を目指して「国際アート・カルチャー都市構想」を掲げており、創形美術学校、学生、田中さん自身も「豊島区国際アート・カルチャー特命大使」である。特命大使としてどんな取り組みをしてきたのだろうか。
「たとえば明日館(自由学園明日館)では『としまでまなぶ夏の1日』を開催。お子さん向けにいろんな体験ができるイベントで、うちの学生は、新聞社の印刷過程で出る無地の紙と、ペットボトルの蓋を使ってコマを作る体験ワークショップを企画しました。とんでもない人数が来たんですが、企画の構成、進行、管理などを全部学生が主体となって動いて」
特命大使としての取り組みは子どもとの関わりだけにはとどまらず、自治体や企業まで広がっている。例えば、過去に実施していた「池ポス」という企画では、池袋の実際の店舗のポスターを、外部のクリエイターや他校の学生とペアになって作成するというもの。クライアントと関わりながら実践的な学びを得る機会は多い。
「1番大きかったのは、11月にやった『街中まるごと-デザインミュージアム-池袋』。日本デザイン団体協議会(D-8)という日本にデザインミュージアムを作りましょうと活動されている方たちがいて、豊島区のまちをひとつのデザインミュージアムと捉えてイベントを行ったんですね。6日間のイベントの手伝いとして参加しました。あとは、街中のサインデザインを見て発掘しながら街歩きをしていくということもしましたね。そういう時には、授業は一旦いいから参加しようと号令をかけます(笑)」
さらには学生だけでなく、工房を開放したり、一般向けのクロッキー講座とデザイン講座を用意したりと、地域とのかかわりも持つ。
「もともと創形美術学校は版画の優秀な卒業生も多いということもありまして、版画を学びたいという声も多かったんですね。版画を刷りたい一般の方向けに土日に開放しています。学生に混ざって大人の方や、外国の方がいらっしゃることも。それ以外にも『いけぶくろARTスクール』を月2回ほど行なっています。たとえば土曜日にいろんなクロッキーのモデルさんがいらしてくれて。骨格や筋肉の動き方を実際に見て描けるということはなかなかないと思います。徐々に地域の方向けに講座を増やしていきたいという学校の考え方がありますね」
池袋はミクスチャーなまち。アートとビジネスが融合したようなコミュニティを作りたい
創形美術学校は1階に一般観覧が可能なギャラリーを持ち、学生作品やOB、OGの作品などを展示。また、生徒の作品はギャラリーのみならず、池袋内の店舗に展示できる機会が用意されている。学生たちにとって、一般に見られることはモチベーションにも繋がり、自己満足で終わらない、作品との向き合い方も変わってくるようだ。
「毎年8月末に文化祭が2日間あり、外部審査員が審査をして賞を決める大きなコンペティションがあります。昨年は東京建物Hareza池袋様も審査員としてご参加いただき、創形グランプリが1人、ハレザ賞が8人。創形グランプリの生徒はスターバックスコーヒー池袋明治通り店で個展をする権利が与えられます。ハレザ賞は、Hareza池袋の赤いひな壇に1週間毎に各自の作品を1点ずつ展示し、最終的には全24点の作品を展示できるというもの。期間中(3週間)に作品が増えていく面白い展示プロジェクトです。その他にもGU池袋東口店の2階の階段の踊り場に、学生が直接描いたタペストリーを飾ることができるコンペもあります。これももう何年もやっていますね。どれも学校が池袋にあるからこそだと思います」
学生にとって学校のある池袋への印象は、小さい頃から来ていて家から1番近い都心、マンガやグッズを買いに行く場所などさまざま。そんなまちで創形美術学校として目指していきたいことはなんだろうか。
「僕の野望は、この辺りにアーティストやクリエイターが育つ拠点になるようなファクトリーを作りたいですね。例えば昔アンディ・ウォーホルが自分のアトリエをファクトリーと呼んで、そこに様々なクリエイターが参加しアメリカンポップアートのムーブメントが生まれたような。また、クリエイティブと起業家が一緒に刺激し合えるようなコミュニティができたらなと。池袋はミクスチャーな感じがするじゃないですか。そういうことができたら面白いなと思いますね」
文:長 紅奈見 写真:鈴木優太