池袋らしさを次の世代につなぎ、育ててくれたまちに恩返しを
渋谷、新宿と並び、東京の三大副都心と称される池袋。便利で都会的なまちとして知られるが、何世代にもわたり池袋を見守り、地元の縁を大切にし続けてきた人々がいる。豊池観光株式会社の代表取締役・谷口英生さんも、その一人。飲食店や高校の学生食堂、アイラッシュサロンの経営に携わるなか、西口商店街連合会の理事を務め、地元の人が関わる“まちづくり”に積極的に取り組んでいる。その活動内容とともに、発展し続けるなかでも変わらない池袋らしさ、まちへの思いについてお話を伺った。
子どもの頃に担いだ“みこし”が活動のルーツに
池袋西口の駅前を中心とした、池袋西口駅前名店街が、谷口さんの生まれ育った地。池袋の商業者として数々の役職を務めた祖父の代から三代目、ご自身の会社もこの場所にある。そして、今の谷口さんの原点にあるのが、幼少期からずっと参加してきた祭りだという。
「ふくろ祭りと合同開催で、毎年9月に氏神様である御嶽神社で例大祭が行われます。私が子どもの頃は、子どもも大人もみこしを担ぐのが恒例。みこし渡御の後は、ご褒美として袋いっぱいに詰まった駄菓子と銭湯無料券がもらえました。銭湯で汗を流し、駄菓子を食べながら仲間と遊びに出掛ける。これが本当に楽しくて。『来年もまた、おみこしやるぞ!』と張り切ったものです。例大祭の意味も、みこしを担ぐ意味も分かっていなかったのですが、それでいいと思うんです。『楽しいから、参加したい』という気持ちが来年、再来年、そして次の世代につながるんじゃないかな」
心に刻まれた大切な思い出が、谷口さんの地域活動の契機だ。「ふくろ祭り」では協議会副実行委員長を務め、豊島区観光協会主催のフラダンスイベント「東京フラフェスタ in 池袋」の中池袋公園会場責任者という大役も担う。
「東京フラフェスタはコロナ禍の影響で2020年から中止が続いていたが、昨年小規模開催を経て、開催されるのは実に3年ぶり。中池袋公園は初の会場なんです。会場面積が小さい分、どうやったら踊り子さんとお客さんが楽しめる会場作りができるか、他の会場との差別化に悩みました」
新しい会場ゆえ、出演するチームが集まるかどうかも懸念していたというが、実際に申し込みが始まると応募が殺到!
「『WACCA 池袋』や『としま区民センター』でレッスンされていた方からの申し込みも多くて、中池袋公園会場で踊るチームは全部で42組になりました。『思い出のある地、自分のエリアで踊りたい』という気持ちがあるんだと思います。だからこそ、独善的ではいけないと感じました。会場では飲食や物販の模擬店に加え、ビール販売も行います。“まったり、のんびりと大人の雰囲気でフラを楽しめる”というのが、中池袋公園会場の最大の特長。他の会場では味わえない雰囲気になるのではないでしょうか。『また来年も、ここで踊りたい!』『中池袋公園会場でまたフラが見たい』と思ってもらえたらうれしいですね。踊り子さんやお客さんが喜んでくれる、自分たちができる最大限の努力で会場作りに励んでいます」
まちが変化しても、変わらず残していくべきものがある
経営するカフェ、バル・デル・グーフォに自ら立つことも多く、休む間もないほど忙しいことが多い谷口さん。これほどまで地域の活動に熱く取り組める原動力は、何なのだろうか。
としま区民センター1Fにある居心地の良いCAFÉ&BAR。モーニングメニューからクラフトビールまで楽しむことができる。
「これまで地域の先輩方にたくさん楽しませてもらった分、今度は自分が運営側としてこの地域の皆さんに楽しんでもらいたいんです。やっぱり、生まれ育った地元、池袋でずっと育ってきたので、良いまちにしたいという気持ちは強くあります。たくさんのお客さんでにぎわう複合施設があり、これだけ大きなまちに発展したけれど、下町でもあるんです。東西の駅前には沢山の商店街があり、少し離れれば民家があって、学校もあります。まちづくりは、活気のある商店街と、人と人とのつながりがあってこそ。だから、池袋を盛り上げるために仲間たちと一緒に一生懸命やっていきたいんです。ひと昔前には、盆踊りやドジョウすくい、餅つき大会など地域のイベントがたくさんありました。そんな時代に戻ってほしいと願っています」
時代の変化とともに変わりゆく池袋。それでも、人と人とのつながりが深いこのまちの良さを残していきたいという。
「豊島区では、『ひとが主役』というコンセプトを掲げています。安心・安全に暮らすことができるという大前提のもと、ここで暮らす人たちが手と手を取り合えるようなまちであってほしい。地域がしっかりしていないと、まちがダメになると思うんです。各種イベント組織や団体にも課題があって、イベントなどの会議は昔からの慣習で平日に開かれます。でも、仕事を抜けて商店街の会議に参加するというのは、今の時代ではなかなか難しい。そうなると『参加しなくていいや』という気持ちになるし、地域活動に参加する人がどんどん減っていってしまいます。昔と今は違いますから、時代の流れに合ったかたちに変えていく必要性は感じています」
小さなコミュニティがまちを大きく発展させる要素になる!
和太鼓チームを立ち上げるほど大の祭り好きだという谷口さんには、ずっと思い描いている夢がある。
「盆踊りを企画したいんです。池袋西口公園では新しいスタイルの盆踊りが行われていますが、昔ながらの盆踊りも残していきたい。各町会・商店街が協力してテントを張って焼きそばを作り、みんなで踊る。ずっとこのまちで暮らす人も、新しく移住してきた人も集まり、コミュニケーションを取れる場を作りたいですね。地域活動に参加したくても、その窓口が分からないという人もいると思います。われわれが地道に活動していき、地域の小さなコミュニティが密になることで、地域活動に参加する人が一人ずつでも増えていくんじゃないかな。コロナ禍で和太鼓チームは休会中ですが、またこれから活動していきたい。太鼓をやってみたいという人は、誰でもウエルカム。私に連絡ください!」
まちへの愛情は人一倍! 池袋を知り尽くした谷口さんが“素”に戻れるのは、やはり地元の仲間と過ごすひとときだ。
「池袋はどんどん新しいお店ができるので、毎日散策しても飽きないくらい楽しい。でも、つい足が向くのはやっぱり地元の仲間のお店なんです。昔ながらの古い店ばかりですが、そこに行けば同級生もいるし、そのご両親もいて、他の仲間と出くわすこともある。私の楽しみであり、癒しでもあります。あまりにも長居するものだから、『そろそろ帰れよ』なんて言われることも(笑)。地域活動の今後について、カジュアルに話せる場にもなっています。会議室で話し合うより、気楽な場所でサラッと話しているときの方が、意外と良いアイデアが生まれるんですよ。祭りという特別な一日が、当たり前にあった子どもの頃。私の世代が経験してきたような楽しい思い出を、今の子どもたちにも残してあげること、次世代につないでいくことが私の使命だと思っています」
文:濱岡 操緒 写真:北浦汐見
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。