HANABAR
西池袋公園の斜向いにある、深緑色の壁の小さなお店「HANABAR」。その名の通り「花」をテーマにしたカフェバーで、花を使った美しいフードやスイーツ、色とりどりのカクテルが楽しめると、連日多くの人が訪れている。2021年から開催されている「IKEBUKURO HANA CIRCLE PROJECT」では池袋PARCOとのコラボ企画にも参加。まちに花という文化を発信する、“秘密の花園”のようなお店の魅力を探るべく、オーナー夫婦にお話を聞いた。
映画のような空間で味わう、花と食が織りなす美しい食体験
天井いっぱいに飾られたドライフラワーやタイル張りのカウンター、深緑の壁に掛かった額縁とアンティークの家具たち。「HANABAR」はまるで、お店自体がひとつのアート作品のような不思議な空間だ。「フィンランドの『ヘイフラワーとキルトシュー』など映画がすごく好きなので、作中シーンからインスピレーションを得ています」と話すのはオーナーの1人である奈々さん。ドライフラワーアーティストの彼女と、ミュージシャンの大樹さん夫婦がつくったこのお店には、2人のセンスが散りばめられている。
「花」をもっと自由にカジュアルに楽しんでもらいたいと、ひらめいたのが食と花の融合。メニューに並ぶのは、色とりどりのエディブルフラワーを散りばめたタイカレーやクリームソーダなど、食べるのを戸惑うほど美しいフードやドリンクだ。スパイスやハーブをふんだんに取り入れているのもユニークで、クリームソーダにジャスミンのシロップ、いちじくのマフィンにカルダモンを合わせており、驚きのある味わいも楽しい。バータイムにオーダーできるカクテルやモクテルも、ピーチのお酒にポップコーンの香りをつけるなど遊び心満載。見た目も味も、他店では出会えないものにこだわっている。
「“花”と聞くと習い事など、ちょっと敷居が高いイメージがありますが、食を通して幅広い年齢の方々に花の魅力に触れてもらえたらと思っています。うれしいことにたくさんの方がインスタグラムに投稿してくださって、他府県や海外からのお客様もいらっしゃって。特にドライフラワーは長く楽しめるのが魅力なので、ここで興味を持ってもらって、リースやブーケ作りなどのクラフトにも繋がっていったらいいなと思います」と、奈々さんは話す。
花を介してまちと関わる。池袋で花といえば「HANABAR」となれる存在になりたい
大樹さんと奈々さんにとって、池袋のまちは文化の発信地としての可能性に満ちている。2017年にお店を出すことになって初めてやってきた時から、クリエイティブな空気を感じていたそう。
「池袋は未開の地でしたが、芸術劇場や南池袋公園などをみて、このまちなら僕らのやりたい『花×〇〇』というコンテンツが発信していけると確信を持ちました。実際にお店をオープンしてからもまちが進化していって、さまざまなカルチャーを広げる追い風になっている気がします。まちと一緒に僕らも発展していけたらいいなと感じてます」と、大樹さん。
「花とみどり」をテーマに、池袋を拠点とする企業と豊島区が一体となって2021年から始まった「IKEBUKURO HANA CIRCLE PROJECT(=ハナサクプロジェクト)」では、池袋PARCOとコラボレーションし、文字通りまちづくりに“花”を添えた。
「PARCOさんからお声がけをいただいて、ショーウインドーのディスプレーを担当させていただきました。ほかにも期間限定のノベルティとしてお花のマスクを制作させていただいて。自分たちの花というコンテンツで、まちづくりに参加できたことは本当にうれしかったです。今後もこういった形でやれることがたくさんあるんじゃないかとわくわくしますし、『池袋で花といえばHANABAR』と言われるような存在になりたいです」と、奈々さん。今後も花を介したまちとの関わりは広がっていきそうだ。
またお店では、池袋らしい意外な楽しみ方をしてくれるお客さんも。
「池袋は推し活をされる方も多くいらっしゃいますが、うちで推しのテーマカラーに合ったドリンクをオーダーしてくださるんです。推しの色のカクテルとアクリルスタンドを合わせて撮影してくださったり。もともとオリジナルのドリンクを作りますというサービスをしているんですが、それが推し活につながるなんて、まったく想像していませんでした。HANABARらしさと、マンガ・アニメという池袋の文化が合わさった素敵な楽しみ方だと思うので、これからも広がっていったらいいなと思っています」
池袋のまちの未来が楽しみだという2人。今後は同じ気持ちでまちを盛り上げる同志の登場を期待している。
「HANABARの周辺にも、文化を愛する個性的な個人店が増えたらいいなと思います。そうすれば、まちに遊びに来た方がお店巡りを楽しめますよね。一緒に池袋のカルチャーを盛り上げることができる仲間ができたらうれしいです」
文:井上麻子 写真:北浦汐見
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。