FIRST AIRLINES
映画館や水族館、プラネタリウムなど屋内で楽しめるアミューズメントスポットが豊富にあるとしまのまち。そのなかから今回ご紹介するのが、池袋にいながら、世界旅行を疑似体験できるバーチャルリアリティ航空施設「FIRST AIRLINES」。旅行気分に加え、飛行機のファーストクラス体験を味わうことができ、これまで多くのメディアにも取り上げられている。2016年12月にオープンし、これまで4万5千人もの来場者が訪れた同施設の創業者で代表を務める阿部宏晃さんに、施設やサービスの魅力、さらには池袋で起業した背景などについても語っていただいた。
空港ならではのワクワク気分を気軽に体験したい、させたい!
世界初のバーチャル空港施設を目指し、訪れた先は池袋駅西口から徒歩5分ほどの場所にあるオフィスビル。エレベーターを降り、本当にここが? と若干の不安を抱きながら扉を開けると、あの聴き慣れたチャイムの音と搭乗を知らせるアナウンスが。
「ワクワクしたでしょ? ここが池袋のビルの一室ということは一瞬で忘れて、頭の中には、スーツケースやパスポートを手にした人々が行き交う空港ロビーの画が思い浮かんだはず。このワクワク感こそが僕が追求したかったことなんです」
そう話すのは、代表の阿部宏晃さん。以前はプログラム開発者として、IT関連のコンサルタント会社でクライアント企業のスタートアップ支援などを行なっていたそう。
「サポートしていた企業のなかには急拡大、急成長する会社も少なくなく、事業を起こす醍醐味を肌で感じていました。次第に自分も自らの手で新たなことに挑戦してみたいと考えはじめたのです」
せっかく新しいことをするなら、自分もお客さまもワクワクするものにしたい。そう考えた阿部さんは、自身の心が躍る場所やシーンはいったいどこなのか、何なのかを考え始める。そしてひらめいたのが空港。
「空港って、何度足を運んでも心が躍るんですよね。これから旅に出かけようとする人たちの期待に満ちた表情。空港職員の笑顔とキビキビした動き。館内に流れるアナウンス……。人が空間を作り上げている。それを実感できるのが空港という場所です。そのワクワク感を作り上げる人やバーチャル技術が揃えば、空港に足を運ばずとも気軽に旅行気分を楽しんでもらうことができるのではと考えたのがバーチャル空港施設を思いついたきっかけです」
試行錯誤しながらつくり上げてきた世界初のサービス
リアルのサービスとVR技術を掛け合わせたおよそ2時間のフライト体験。旅先は、イタリア、ニューヨーク、パリ、ハワイなど世界13都市。事前に予約をし、ビル内にある「池袋国際空港」に足を運んで搭乗手続きを済ませ、アナウンスに従い、いよいよ機内へ。
「12席ある座席は、トルコ航空で実際に使われていたファーストクラスのシートを使用しています。機内のアナウンスや接客を担当するクルーは元客室乗務員の指導を受け、実際の機内で体験するようなサービスを追求。離陸シーンではシートを振動させ、モニターに映像を映し出すなどし、機内での臨場感をできるかぎり再現しました」
離陸後は、最先端のVR技術を使って各都市の街歩きを楽しむ疑似旅行体験を堪能。さらなるお楽しみは機内食。
「旅の楽しみのひとつが食事ですよね。料理は旅先となる国ごとにメニューを変更。トリュフやフォアグラなど豪華食材を使用し、前菜、スープ、メイン、デザートとコース仕立てにし、“beef or fish”の選択もOK。ファーストクラス気分を機内食でも味わっていただけます」
他に、現地との中継体験や映像、音楽も楽しめるなど、飽きさせない工夫も。
「最初は試行錯誤の連続でした。というのも、僕自身、航空関係の仕事に就いていたわけでもなければ、ファーストクラスに乗った経験もなし。それだけに、どうやったらお客さんをワクワクさせることができるのかを考えるところからスタート。コンテンツの内容もアンケートの回答を参考にしたことがとても多いんです。例えば離着陸の座席の振動も、お客さまからの声が発端です。就航先も徐々に増え、年配の方に人気の北欧や外国人向けに日本一周なども新たに加わりました。お客さまの声をもとにサービスも技術も日々進化する国際空港。それが池袋にあるここ、『FIRST AIRLINES』の特徴でもあります」
池袋はまち全体がエンタテインメント。だから面白い
自らのアイデアと技術をもとにたった一人で立ち上げた「FIRST AIRLINES」。開港の地に池袋を選んだのにはどんな理由が?
「池袋は子どもの頃から家族で買い物や食事に出かけていた馴染みのあるエリアでした。雑多なイメージが強いまちなのですが、僕はそれをプラスに考えていて。例えば、行き交う人も家族連れから、カップル、学生、サラリーマン、年配の方までまんべんなくいる。お店も個人店から百貨店まで実に多彩。多種多様なサービスが楽しめる、エンタメ要素の強いまちだからこそ、新しいことを受け入れてくれそうな気がしていました」
とはいえ、会社員を辞めての起業。ハードルはなかなか高そう。
「まずはコンパクトな空間に機内設備を置ける物件探し。そんな条件を飲んでくれるビルはあるのかと不安もありましたが、未知の事業を理解し、部屋を貸してくれるオーナーがいたんです、池袋に。経営に関しては公共の相談窓口となっている、『としまビジネスサポートセンター』を利用。実際に専門家の方が施設に足を運んでくれ、経営に関するアドバイスをいただくなど心強かったです」
実際に運営がスタートしてからも、「池袋でよかった」と思ったことがあると話す阿部さん。
「メディアで取り上げてくださることが思った以上に多いんです。切り口としては、『変わったサービスを体験できるまち。それが池袋』的な(笑)。いいんです、それで。新しいことを『変わっていて面白い!』と捉えて、足を運んでくださる方が実際に多いですし。中には、家族への誕生日や会社のレクリエーションとして利用される方も。そういう利用の仕方があるんだ!という気づきをもらうこともあります」
今後のビジョンはいかに。
「事業としては、昨年末に浅草に新たな施設をオープンさせるなど拡大方向へ進めていこうと考えています。一方、池袋では、まちとの関わりをより深めていきたいと考えています。例えば、池袋ワンデーパスなどを作って、参加店を自由に回れたら面白いのではと。また、当社のVRサービスを活かし、高齢者施設やホテル、企業にこちらから出向いて海外旅行の擬似的体験をしていただくことも考えています。お客さまにワクワク感を与えたいと思ってはじめたこの事業。6年経った今、まだまだやれることはあると、いちばんワクワクしているのは僕自身かもしれませんね(笑)」
文:堀 朋子 写真:立花 智