サンシャイン水族館
実は日本は、100以上もの水族館があると言われている水族館大国。サンシャイン水族館はそのなかでも都会の真ん中、複合施設の最上階にあるという世界初の都市型水族館として1978年10月にオープンした。区民だけでなく、多くの人々に水とともに生きる生物たちの“生き様”を伝え続けてきたまちの水族館が、今の時代に伝えたいこととは。今回は館長の丸山克志さんに、その想いを語ってもらった。
生き物を見せる場所から、生き物と繋がる場所へ
水族館は水の中や水辺の生物の生き様を伝える場所。どうして日本にはこんなに水族館が多いのかと不思議に思っていると、日本が島国だからではないか、と丸山さん。
「日本は周りを海で囲まれた島国なので、漁業が盛んであり、海や川など水の世界を身近に感じている民族なんじゃないでしょうか。水の中の生物にも関心が高いので、こんなにたくさんの水族館ができたのではないかというのが、私の個人的な見解です」
開業当初は都会の人々を癒すレクリエーション施設として、サンシャインシティの屋上にオープンしたサンシャイン水族館。しかし時代とともに人々の価値観や考えも変わり、水族館の役割もどんどん多様になってきている。丸山さんは今のサンシャイン水族館は、ただ人を楽しませる施設ではなく、楽しくて学びがある、世の中に必要なメッセージを受け取ってもらえるような場所であるべきだと言う。
「昔は世界中の生き物を展示して人を楽しませる場所でしたが、昨今SDGsや環境問題への声が大きくなるなかで、水族館は人間と自然環境の関係性を考える“きっかけ”をつくるような場所になっていきたいと考えています。水族館で多様な生き物が生きている世界を見て、彼らの世界と人間の行動や経済活動がつながっていることを知る。その気づきの先で、生き物たちと共存するためのアイデアが芽生えて、実際に行動するところまでいけたら、水族館の役割を果たせたことになると思います」
空飛ぶアシカや多彩なイベント。楽しみながら、気づきを得られるための工夫
水族館の良さは楽しみながら、自然に生き物に対する関心を高められるというところ。SDGsや環境問題という大きな問題を考える入口として、けして啓蒙的にならないことを意識している。屋上という特殊な立地を生かしたユニークな展示もそういった工夫の一つだ。
「2017年に屋上に誕生した『マリンガーデン』にあるのは、この立地を生かしてより生き物の多様な姿を見てもらうための展示空間。アシカが空を飛ぶように水槽を泳ぐ『サンシャインアクアリング』は、 “頭上を泳ぐアシカが見たい”という飼育部以外のスタッフの一言から生まれました。アシカはお客様の前で飼育員とコミュニケーションがとれる生き物なので、展示以外の方法でも多くのことを伝えてくれるという意味で、当館の主役の一人ですね」
またさまざまな切り口で開催されている期間限定の展示やイベントも、普段の展示では伝えきれない生き物の魅力を見てもらえる絶好の機会。常設は難しい生き物の展示や、テーマを絞ることで来館者に知ってほしい生き物の姿を見せるなど、知らない世界を知るための大きなきっかけなっている。
「特別展やイベントは、より多くの人々に興味を持ってもらう間口を広げるツールとしても重要です。期間限定だからこそ、突き抜けたアイデアを実践できます。ただ飼育員だけだとどうしても学術的になりがちなので、よりキャッチーに見せることを大事にしています。たとえば過去の例だと、生き物の繁殖を見せたいとなった時に『繁殖』というワードを使うのではなく、『性いっぱい展』と名付けて面白くみせるなど、どうテーマを見せるのかをいつも考えていますね」
エンターテインメント性を出しながら伝える工夫をする一方で、沖縄県恩納村と共同で進めるサンゴ礁の保全活動や、子供達とのワークショップなど、より実践的な環境問題へも積極的に取り組んでいる。
「サンゴ礁保全プロジェクトは2006年から継続しているものです。現地に飼育員を送って活動したり、館内にもサンゴ礁の再生プロジェクトを見せる水槽を設置したりしています。また学生たちに特別講義を行ったり、一緒に環境について考えるワークショップを行ったり。こういった活動も、今後ますます力を入れていきたいと思っています」
区民が誇りに思えるような水族館であり続けたい。
区民はもちろん、多くの人にとって池袋のランドマークであり、子供の頃からの思い出が詰まった場所でもあるサンシャイン水族館。まちも人も変化する中で、時代に合わせた役割を果たせるよう、進化し続けていきたいと丸山さん。
「うれしいことに、まちにサンシャイン水族館があることを誇りに思ってくださる方々のお声をちょうだいすることがあります。時代が求める水族館の姿を受け止めて、これからもずっと皆さんに愛していただける水族館であり続けたいですね」
水族館として大きなメッセージを発信しながらも、まずは気軽に楽しんでほしいという丸山さん。自分以外の生き物の生き様に触れることで、自分の人生のヒントが見つかるかもしれない。
「生き物は純粋に“生きる”ために生きているので、人間のように感情や経済や組織のことは考えていません。彼らのシンプルな生き様から、お客様それぞれの生き方のヒントを見つけてもらえたらうれしいです」
文:井上麻子 写真:立花 智
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。