おせっかいで人とつながり、豊島区をもっと豊かな場所に
まちなかで子どもが笑顔で元気に遊びまわる風景は、まちを活気づけ、住む人、訪れた人に安心感を与えてくれる。そんな風景のあるまちづくりに不可欠なのは、地域による子ども達の見守りだろう。今回は、地域の見守り役を自負し、さまざまな活動を展開している、認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークの代表の栗林氏に、活動内容や地域への想いについて話を聞いた。
子どもの貧困、教育格差に衝撃
「子ども達が自分らしく、笑顔で成長できる場所をつくりたい」
栗林さんがWAKUWAKUネットワークを設立したのは、2012年。設立前は、区政70周年事業 の一貫として、2003年から子ども達の遊び場として 池袋本町プレーパークの運営に携わってきた。ある時、厚生労働省が発表した「子どもの6人に1人が貧困状態」という相対的貧困率に衝撃を受け、子ども達のニーズに合う居 場所をまちにつくる必要性を実感したという栗林さんは、なくなる予定だったプレーパーク事業を引き継ぐ形で団体をつくった。
「長い間、『子どもの問題は親の責任。他人が踏み込んではいけない』と世間では言われてきました。ですが、もっと地域が地域の子どもの育成におせっかいして関わり、子どもの居場所を作ったり、育児における親御さんの孤立を予防したりする。そうすれば、子ども達が自分らしく、笑顔で成長できるんじゃないかと思ったんです」
栗林さんが事業を引き継ぎ、団体設立を決意した背景には、特に忘れられないある子どもとの出会いがあったという。
「高校へ行けないかもしれないという一人親家庭のお子さんがいて、プレーパークの ボランティアスタッフの仲間とともに 学習サポートをしていたんです。その子は、お母さんはダブルワークで忙しく、毎日一人でお弁当を買って一人で食べる暮らしをしていたのですが、「家族みんなでご飯を食べるなんて気持ち悪い」と言われたことがあって。とてもショックでしたね。でも、その子がそう思ってしまうような状況を作ってしまったのは、もちろん本人の責任ではなく、親の責任でもありません。この社会を作った私達が一人ひとり、できることを考えて地域の子どものために行動をすることで、何かが変わるのではないかと思っています。「地域を変える 子どもが変わる 未来を変える」。このキャッチフレーズを掲げながら、約10年活動を続けています」
区内の企業との協業で、新たに「子ども服寄付プロジェクト」を実施
そんな想いがきっかけで生まれたWAKUWAKUネットワークには現在、3名の専属スタッフの他、約300名のボランティアの皆さんで成り立っている 。設立前から精力的に行ってきたプレーパークの活動の他、子こども食堂 や無料学習支援、フードパントリーや子どもが安心して宿泊できるWAKUWAKUホームなど、さまざまな事業を展開している。その活動の一つとして新たにスタートしたのが、「子ども服寄付プロジェクト」だ。これは、回収ボックスに集まったまだ着られる子ども服を区内の必要とする家庭に提供するというもので、株式会社サンシャインシティとの協働により実施された。
「今回のプロジェクトでは、サンシャインシティさんが子供服の回収をし、WAKUWAKUネットワークがつながっているご家庭へお渡しするというもの。お渡しにあたっては良品計画さんが場所を貸してくださいました。どちらの企業さんも私達の活動に深く理解を示してくださり、「見えないけれども、今困難を抱えている人たちを、 活動を通してつなぐことが自分たちの役割だ」と積極的に協力をしてくださいました。本当にうれしかったですね。こうやって団体同士でつながっていけるのは、とてもいいことだなと思います」
実際にこども服や食料品などの支援活動を行う中で、栗林さんが変えていきたいと思うことがあるという。それは、助けを必要としている人の意識だ。寄付品を受け取りにくる人の中には、「取りに来るのが恥ずかしい」と言う人もいるという。しかし、何回か訪れるうちに、こうして自分を受け入れてくれる人達がいることに気づくようになり、「自分一人だけでがんばらなくてもいい。誰かに頼ることは恥ずかしいことではない」という意識に変わってくるそうだ。
「定期的なイベントとして行うことで、こういう形で誰かに頼ることを恥と思うのではなく、「困っている時はお互い様でいいじゃん」と思える文化が根付いてくれるといいなと思います。こういう地域のお互い様のおせっかいをいっぱい受けて、自分も大きくなったんだと子ども達が堂々と言える社会になってほしいです」
これからも“おせっかい”を通してつながりを作り、地域を豊かな環境にしていきたい
栗林さんは、自分の行っている活動を“おせっかい”と呼んでいるが、この言葉にこだわる理由には、ある素敵な記憶がある。
「息子が小学生の時の授業で池袋を紹介する作文課題が出た時に、「うちのお母さんはとてもおせっかいで、困っている人がいるとすぐに声をかけます。でも、僕のまちに はおせっかいおばさんやおじさんがたくさんいて、まちの交流が豊かです。だから僕 はこの まちが大好きです」という内容のものを書いたんですよ。この作文を読んだ時、うちの息子も私の知らない所でたくさんおせっかいをされて育ったんだなと分かり、いい言葉だなと思ったんですよね」
そんな、栗林さんが大切にしている“おせっかい”。続けた先に何を目指すのか。今後の活動への想いを聞いてみた。
「私達は、弱い立場の人達のおせっかいをしています。その人達に必要なものを見える化してみんなで共有し、いろんなつながりをもって困っている状況を変えて豊かな環境にしていけたら素敵ですよね。一つひとつの支援は、たくさんの人達の応援に支えられています。こども服や食料品の支援を受けて暮らしが一変するわけではないけれど、つながることで気持ちが豊かになれたらいいなと思います」
子どもは未来の担い手。だからこそ、彼らを地域で見守り、大切に育てていくことが、これからの地域、そして社会をつくることにつながっていく。そのためにも、人と人、人と地域をつなぐ“おせっかい”は重要なキーワードになってくるかもしれない。おせっかいな人達がいるこの豊島区が、これからどんなまちになっていくのか。おせっかいながら見守っていきたい。