上池袋の豊島区立くすのき公園に隣接する、人と地域をつなぐ注目のカフェ「喫茶売店メリー」をご存じだろうか? 木造建築のシンプルな建物内にあるのは、昭和レトロなカラフルな看板に手書きのメニュー、そして、温もりを感じる人々の笑い声だ。年々近代化していくまちの中で、当店はまるでそこだけ時が止まったかのように静かに佇み、訪れる人々の交流を見守っている。地域の交流拠点となっている、この気になるカフェについて、店主の山本 直さんに話を聞いた。
家ではできないことをみんなで共有して楽しく暮らしたい
カフェを運営しているのは、山本直さんと山田絵美さん夫妻が共同代表を務める「かみいけ木賃文化ネットワーク」だ。山本さんは、こうした施設の運営やアパート経営をしながら、地域と人がゆるくつながるさまざまな活動をおこなっている。
「「自分の家の中だけで完結するのではなく、その外側にあるものを地続きにつなげていくことで、もっと自分らしく楽しく暮らせるんじゃないか」という想いの下、家ではできないことをみんなで共有するようなプロジェクトを提案し、普及させる活動をしています」
喫茶売店メリーは、これからのご近所付き合いのあり方そのもの
「喫茶売店メリー」がオープンしたのは、2022年1月。そもそも、なぜこの場所にカフェを開いたのだろうか。
まず、コロナ禍で人が集まるイベントができなくなった状況で、もっと人が日常的に集まって接点を持てるカフェを作ることで、いろいろな関係性が生まれてくるという期待があったこと。
「1番の理由は、このまちに面白い人達が居すぎるんですよでも、彼らのことを誰かに知ってもらったり、彼らと一緒に過ごせる場所というのが、このまちにはなかった。じゃあ、叶えられる場所をつくろうということで、このカフェをオープンさせました」
そんな経緯から生まれた「喫茶売店メリー」のコンセプトは、「令和のご近所付き合い」「公園の売店」。このコンセプトができた背景には、どんな想いがあるのだろうか。
「このまちには、年齢、国籍問わず、いろいろなバックグラウンドを持つ方 が住んでいるんですよ。だから、みんなが楽しく過ごしていける空気感のようなもの、いわゆる地縁血縁でつながっていた昔のご近所づきあいを超えて、 新しい時代や、価値観に合うご近所付き合いをどうやったら 作れるか。それに、 僕はチャレンジしているのだと思います」
寄付額約500万!クラウドファンディングにより生まれたカフェ
実は、「喫茶売店メリー」は、クラウドファンディングによってオープンが実現した店だ。オンラインとリアルで集まった寄付額は、約500万円。200人以上の人が寄付をしてくれたのは、多くの人が、この「喫茶売店メリー」のような場所を必要としていたからだろう。
「お店の会員の方や知り合いの方だけでなく、地域の長老的存在の方や、たまたま通りがかったおじいちゃんが、「カフェができるなんて、いいね」と寄付してくださったりもしたんですよね。寄付を募ってみて、皆さんが期待してくださっているというのがよくわかったので、クラウドファンディングをしてよかったなと思いましたね」
地域の人たちに求められ、親しまれている当店だが、その愛らしい店名も人々を引きつける重要な要素になっているようだ。
「今はもう閉園してしまったんですが、上野公園にあった遊園地のメリーゴーランドの馬を預かり先がないということで僕らが預かったんです。お店の隣の公園に置いておいたら、自然と子ども達が遊ぶようになって、まわりの人達からも「メリーちゃん」と気にかけていただけるようになったんです。みんなが呼びたくなる名前がいいかなと思って、まちの人達から親しまれているメリーちゃんにあやかって、今の店名にしました」
いろいろな人が集い、つながる場所となっている当店だが、そのつながりによってさまざまなものが生まれているようだ。
「地域の子ども達が、ビニールのゴミ袋を熱で圧着させて貼り合わせて、巨大こいのぼりを作るんですよ。それを5月5日の子どもの日に、店の隣の公園の上を泳がせるんですが、子ども達が見に来ては歓声を上げていますね」
店に来た誰かが、「これをやりたい」と言った時に、みんなが来てそれを楽しむというスタンスが店には根付いているという山本さん。山本さんが主催をしなくても、来た人が自発的に声をかけ、コミュニティが自然に形成されていくのだそうだ。
「結構ゆるいんですよね」
山本さんのその一言に、当店のつながりにまつわるすべてが集約されているのかもしれない。
お節介で人をつないで、みんなをハッピーに
最後に、山本さんの活動拠点であるこの豊島区上池袋エリアについて聞いてみた。
「ここは、単身者が圧倒的に多いエリアですね。単身者になると、用がない限り、喋らない方が多いんですよ。でも、ちょっと人と話すことで気が紛れたり、新しいことを知れたり、生活が豊かになったりするじゃないですか。そういう小さなハッピーが、このまちにあったらいいなと思って。自分のお節介で、人をつないでいます(笑)」
「喫茶売店メリー」をオープンされた今、山本さんが目指すゴールは何かを尋ねると、「それぞれが好き勝手にしつつも、まわりも気にしながら楽しく過ごせる場所にしていきたい。お客さんと呼ばれるような人も、ここが自分の居場所だと思う愛着が生まれたら最強ですよね」という答えが返ってきた。夢を語る山本さんの明るい声と眼差しに、人々がゆるくつながり、支え合う、このまちの未来が見えた気がする。