「Mixalive TOKYO」の発信力で、まちをデザインする仕掛けもつくっていきたい
2020年にオープンした「Mixalive TOKYO(ミクサライブ東京)」は、舞台やトークショー、音楽ライブ、展示会、コラボイベントなど、ありとあらゆるライブコンテンツを発信する池袋の新たなエンターテインメント施設。運営を担うのは講談社をはじめとするエンターテインメント企業で、各社それぞれの強みを生かしながら“旬”のコンテンツ開発に取り組んでいる。オープン前、事業のスタートから携わってきたのが、講談社の浦田健一さん。Mixalive TOKYO施設の生みの親ともいえる存在の彼に、施設とまちへの想いについてお話をうかがった
エンタメの“プロ”がタッグを組み、さまざまなライブコンテンツをMIX!
“LIVEエンターテインメント”という新たな潮流に着目した講談社。同社の作品を中心にライブイベント化し、発信する場所として誕生したのがMixalive TOKYOだ。出発点は、今から約6年前。浦田さんがこのプロジェクトのメンバーに抜擢されたのは、エンターテインメントの施設事業やまちとの連携に関わってきた前職の経験もあったからだという。
「施設事業は講談社にとって初めてのことですから、私が培ってきたエンタメ施設事業のノウハウを生かしてほしいということで任命いただきました。弊社で開発したLIVEエンターテインメントを、お客様との接点の場で魅力的に発信することが、施設には求められます。また、拠点となる“箱”をつくったのですから、イベント事業だけでなく施設事業と両方を成立させないといけません。主に施設事業の運用分野が私に課された任務となります。Mixalive TOKYOを担当する講談社の事業開発部のメンバーは現在約30人。LIVEエンタメの現場で実績を積んできたメンバーも多く、心強いですよ。このプロジェクトの構想が立ち上がったときから、様々なパートナー企業と協業して夢を追い求めていくチャレンジに、ワクワクしました」
拠点として選んだのは、池袋。「さまざまなエンターテインメントが集結し、サブカルチャー好きのホームグラウンドでもあるこのまちは立地的にも環境的にも素晴らしい」という。地下2階、地上9階に点在する各施設を、一つひとつ丁寧に案内してくれた浦田さんからは、施設運営の責任者としての立場を超えた愛情が垣間見える。
「Mixalive TOKYOは、2019年に閉館した『シネマサンシャイン池袋』を丸ごとリノベーションした建物です。約30年の間、池袋のまちに親しまれてきた歴史を感じられる雰囲気もいいでしょう。映画館として使っていた機能を残している部分も多く、シネマサンシャイン池袋に映画を観るために足を運んでいた方も、懐かしさを覚えるかもしれません。ただし、リノベーションには相当苦労する部分もありました。レトロな空間に演出した内装・外装だけでなく、ビルオーナーや設計施工会社に全面協力いただきながら、劇場に必要な設備を付加するために必要な構造計算や消防設備、食品衛生許可、排気機能強化など・・・。スクリーンを観る映画館とステージを観る劇場とではお客さまの視線が違いますし、最新のLIVEエンターテインメントを発信できるよう特殊設備も取り入れたいわけですから大変でしたね」
新参者を受け入れる寛容性も、まちのポテンシャルになっている
構想段階から関わりはじめ、その約2年後の2020年3月をオープン予定としてプロジェクトが進められたが、世はまさにコロナ禍。Mixalive TOKYOが本格的にオープンできたのは、5カ月遅れの8月となった。この逆境ともいえるタイミングでスタート地点に立つことに、不安はなかったのだろうか。
「直接お客さまに来ていただけないというのは非常に残念なことではありましたが、講談社の作品は、書籍化だけでなく二次的にアニメ化やドラマ化、ゲーム化などいろいろな“出口”があります。Mixalive TOKYOでもリアルなLIVEイベントだけでなく、まずはライブ配信から着手しました。意外にも、その状況をポジティブに捉えることができていましたね。もちろん、全てが順風満帆というわけではありません。オープンからの4年を振り返り『思い出に残っている出来事は何か』と聞かれれば、やはり試行錯誤した出来事の方が多いですからね(笑)」
Mixalive TOKYOの挑戦は、まだ始まったばかり。紆余曲折あるなか、日々新しいプロジェクトに取り組み、施設運営をコーディネートする浦田さんの支えのひとつになっているのは池袋というまちの存在だという。
「池袋そのものに対する固定観念だったり、先入観だったりというのは全くありません。ただ、前職で都市開発がらみでいろいろな地域や企業とも関わってきましたが、まち全体に連帯感があるというのは初めての感覚でした。産官学の連携も深いですし、みんながまちを愛し、『一緒にやろう』という柔軟な空気に溢れている。たとえば、講談社が後援している日本推理作家協会主催の『江戸川乱歩賞』。江戸川乱歩が最後に居を定めたのが池袋ですから、まちと由縁があります。以前は関係者が集まり、都内のホテルで贈呈式が行われていましたが、いまは豊島区の協力もあって、『としま文化の日』の期間に行われるイベントのひとつとして、一般のお客様も招いてオープンなかたちで行われています。提案から数ヶ月という驚くスピードで決まったのも、まちづくりに関わる方々が『まちを盛り上げたい』という想いが熱いからでしょう。東京を代表する巨大都市であるにもかかわらず、さまざまな人々が手を取り合えるというのは素晴らしい土壌だと思いますね」
地域に根差し、地域に必要な存在となり、地域に恩恵を与える。それもまた、浦田さんが考えるMixalive TOKYOという施設が目指すビジョンのひとつだ。地域からの講談社に対する期待に応えるためにも、自身の人脈やネットワークでまちとのつながりを広げ、現在は豊島区の中でコーディネートやプロデュースを手掛けることも増えているという。
「施設事業と地域とは、切っても切り離せない関係があると思っています。池袋という素晴らしい環境に施設拠点を構えられたのですから、積極的にまちに関わっていきたい。まちの方々とつながり、まちに貢献していくこともMixalive TOKYOという施設として、大事な使命のひとつだと考えています。講談社がもつコンテンツをまちと融合できるかたちにして発信したり、まちのイベントにMixalive TOKYOが参画したり。可能性はたくさんあると思いますから!」
浦田さんにとって、「知れば知るほど魅力が深い」というこのまち。最後に、お気に入りの場所を伺ってみると……。
「雑司ヶ谷にある『旧宣教師館』ですね。アメリカ人宣教師のマッケーレブが建てた明治期の居宅で、豊島区内に現存する最古の近代木造洋風建築なのだそう。あるイベントで協力いただいた場所でもあり、歴史を感じる美しい場所です。佇まいが素晴らしいので、ぜひ皆さんも行ってみてください!」
文:濱岡操緒 写真:北浦汐見
※一部の写真は取材先よりご提供いただいております