内定を蹴ってクラフトビール、そして池袋の地へ。直感型マネージャーがまちに旋風を起こす?
2023年3月に、池袋駅東口からすぐのサンシャイン通りにオープンした「P-144(ピーイチヨンヨン)」。マネージャーの草開さんはこの1年間、池袋のまちを見つめながら、お店づくりに奮闘してきた。もともと飲食の仕事が好きで、内定を蹴ってまでクラフトビールの世界へ飛び込んだという彼。直感冴え渡る草開さんが、P-144を通して池袋でやりたいこととは?
お酒が飲めない青年が、クラフトビールの面白さに目覚めた
東京生まれ、3歳まで富山で育ち板橋へ。現在は豊島区で暮らす草開さんにとって、豊島区は身近な存在。幼少期によく遊んだ池袋が、時を経て仕事場になるのはなかなか感慨深いそう。
「池袋はよく来ていました。チャリで来て、サンシャインシティで走り回って。小学生のときはカードゲームにハマっていたので、放課後はカードショップに入り浸っていましたね」
昔から食べることが好きで、商品開発などにも興味があったという草開さん。大学生の時にアルバイトとして、飲食業界への始めの一歩を踏み出すことになる。ただし、きっかけはちょっとユニーク。
「当時AKB48が大好きで、秋葉原に彼女たちのカフェができるというので応募しました。でも女子しか募集していないと言われてしまって、しぶしぶ隣のガンダムカフェに応募して合格。『これでAKBに会える!』と、下心丸出しでしたね」
とはいえガンダムカフェで商品開発のイロハを学び、大学卒業後はジョブカウンセラーの仕事に内定。内定がうれしくていつもと違う帰り道を通ったところ、そこで運命の出会いを果たしてしまう。
「帰り道に『TITANS』というクラフトビール店があって、何気なく入ったんです。そしたらビールがめちゃくちゃ美味しくてびっくりして。僕はお酒が苦手だったんですが、『TITANS』のビールはおいしかった。それでなぜか『これは売れる!』って直感で確信して、1週間お店に通い詰めた後に入社させてもらうことになりました。内定は蹴って(笑)」
ビールのインポーターの直営店でもあった『TITANS』で2年半、クラフトビールについてみっちり修行。マネージャー職も経験した。そのあと、フリーランスでクラフトビール店の立ち上げなどを経験し現職へ。「P-144」のクラフトビールはもちろん、お酒関連はすべて草開さんがセレクトしているそう。
「クラフトビールの良さは、狭いところ。造り手は本当にクラフトビールが好きな人としか取引をしないから信頼関係も必要だし、価値を理解している人だけに向けて商売しているのが面白いんです。また僕自身は、まだクラフトビールを知らない人へ、魅力を伝えることに面白味を感じています。初めての人にはホップの話をするんじゃなくて『これ、なんだか海外のガムみたいな味しません?』って日常的に触れるものに言い換えをするんです。するとお客さんも興味を持ってくれるし、クラフトビールも面白いって勝手になっていくかなって。だから僕は、“入り口”の人になれたらいいなと思います」
意識しているのは「やってみなはれ」。自分流のスタッフとの向き合い方
草開さんが立ち上げから関わってきた「P-144」。一時は人手不足に悩んだが、現在はアルバイトスタッフも増え、キッチンには要となる料理人の新入社員も入社。年齢が若いスタッフとこれほど多く働くのは初めてという彼が、スタッフとのコミュニケーションで大事にしていることは?
「スタッフに対して意識していることは『やってみなはれ』の気持ち。ここからここまでと範囲だけを決めておいて、その中で自由にやってもらうようにしています。困った時は言ってもらえれば協力できるし、範囲を飛び出したらちょっと戻してあげるだけ。それぞれが自分のキャリアに必要だと思うことにはどんどん試したほうがいいし、そっちの方が楽しめると思うんですよね」
一年間で常連さんも増えて、じわじわ盛り上がってきている「P-144」。スタッフもそろってきたところで、今年は池袋でやりたいことがあると草開さん。
「『いらっしゃいませ』じゃなくて『うっす』みたいな感じで挨拶ができる、距離の近い常連さんが増えてとてもうれしいです。このあたりで働いている方や、お仕事帰りに池袋での乗り換えついでに寄ってくださる方もいます。夜はクラフトビールとスパイスや薬膳を使った料理が食べられるので、気軽に寄ってほしいです。個人的には今年、池袋でカレーフェスをやりたいと思っていて。カレーはうちのランチの名物ですし、カレーとビールは文化で通ずるものがあると思っているので、まちを巻き込んでできるかなって。まずは今年、第1回目を開催したいですね」
そして池袋のみなさんは、もっと“ナンパ”してください!
毎日忙しく人が往来する池袋東口。仕事や趣味など目的地がある人が多いためか、まちの人同士が交わっている感覚が薄いように感じると草開さん。
「池袋のまちにはいろんなコミュニティがあって素敵なんですが、それぞれが強すぎるせいで、別のコミュニティの人と交わるのが苦手なのかな? と思います。道を歩いていても、誰かと誰かが挨拶しているみたいな光景がなくてちょっとさみしい。お店で飲んでいるお客さん同士も同じで、別のグループとはなかなか交わらない。なんかもっと、隣の人と話したら良いと思うんです。自分の好きな世界とか、僕にもシェアしてほしい。もっと外で飲んで食べて、あと(いい意味で)ナンパしてナンパされたらいいんです。そうやって、このまちの人がもっと繋がっていったらいいなと思います」
文:井上麻子 写真:北浦汐見