池袋は顔見知りの多いまち。『ネイバーフッドコミュニティ』の実現を目指して
2017年から池袋東口大通りを主な舞台として進められてきた「IKEBUKURO LIVING LOOP(以下LIVING LOOP)」というプロジェクト。まちなかにリビングのような空間を広げるためにマーケットなど様々な取り組みを主催するメンバーの一人が宮田サラさんだ。池袋だけでなく、高円寺にある賃貸住宅では住み込みで女将という名で運営を務めるなど、まちや人に多く関わる彼女に、話を伺った。
子どもの成長も見届けられる。“暮らしを営む”人との関わり
2017年にスタートしたLIVING LOOPは、グリーン大通りと南池袋公園を舞台に、まちなかのさまざまな使い方や過ごし方を実験し、少しずつリビングのような風景を育んできた。マーケットには飲食店や雑貨店が出店し、まちなかには木の机やソファが設置され、池袋という都心とは思えないリラックスした空間が広がっている。年に数回のマーケットの開催、出店者が日替わりの「STREET KIOSK」を実施するなど、今や池袋のまちの風景に欠かせないプロジェクト。そもそも宮田さんは、なぜ人と関わる活動を始めたのだろうか。
「もともと暮らしに関わる仕事がしたいと思っていました。そのきっかけが、大学のゼミで。私がいたゼミは大学の外に出て学ぶという方針だったので、いろんなワークショップとかイベントに参加したり、東北にボランティアに行ったりしました」
そうした人とのつながりから、いろんな地方で活動している面白い人に会いにいく旅をしていたという。
「自分が暮らすまちをより良くしていこうと活動している方が多くいて、そういう方たちがかっこいいなって。一方で、まちってやっぱりすごく大きな存在なので、なかなか自分ごととして考えられないと感じたんです。でもまちって暮らしの集合体として出来上がっていくものなので、暮らしを営む人と関わるような仕事がしたいと思いました」
“暮らしを営む”人と関わる宮田さん。人と関わる機会が多いからこそ、大変なこともあるが嬉しいことも多くある
「今年のLIVING LOOPのスペシャルマーケット(2023年11月3日、4日、5日開催)では子どもの成長がすごく見られました。たとえばけん玉パフォーマンスをしてくれた、中学3年生の真ノ助くんという男の子は、初めて会った時は小学校3年生。南池袋公園でけん玉をやっていたところに声をかけて。LIVING LOOPのプロジェクトが7年目なので、7歳成長しているわけですよね。その過程で、最初は小学生の少年だった子が、成長して、パフォーマンスのMCを回しているのを見て、このまちで育っているんだということを改めて感じました。すごく良かったですね」
池袋はカオスだけど緩やかな一体感のあるまち
そんな宮田さんが池袋のまちと関わるようになったのは2014年ごろから。中学時代から西武沿線沿いに住んでいたこともあり、もともと身近な地域であった。
「nest代表の青木が当時運営していた賃貸住宅の中にコアワーキングスペースがあったんですが、そこで知り合いがたまたまイベントをやっていて。そこで青木と知り合ってから、※としま会議に遊びに行ったり手伝ったり、学生としてちょっとずつ豊島区に関わり始めていました。新卒で住宅を運営している青木の会社に入社するのとちょうど同じタイミングで、一区民として南池袋公園がより良くなって欲しいとリニューアルオープンのイベントの企画などから関わり始めていきました」
※としま会議: “豊島な人々” をジャンルや世代を越えて集め、豊島区のさまざまなヒトやコトを紹介しながら、参加者同士の交流を促すイベント
宮田さんが池袋と関わり始めた2014年、豊島区は消滅可能性都市とされていた。
「としま会議というものをやっているぞ!というのは関わる前から知っていて、外側から見るとなんか豊島区って面白そうと思っていました。消滅可能性都市とされているから、行政もまちの人も、『なんかしなきゃ』という気運が高まってきているんだなというのが最初の印象で。そこから、まちをより良くすることを考えて場をつくる人たちが増えていったのと、そういう人たち同士で顔の見える関係ができていたのが今から8年ほど前。場をつくる人たちのつながりは生まれていましたが、なんか楽しそう、面白そうだから行ってみよう、という層の人たち同士はそんなに繋がりがなくて。でも、最近は活動をする人とその場を楽しむ人とがつながり合っているところがすごく見えるようになってきたなと感じているところです」
面白いことをやっているから参加してみるというライトな層同士がつながり始めたきっかけの一つがCCC(Cleanup & Coffee Club)。東池袋でスタートしたこの企画は、池袋内のいくつかの拠点が暖簾分けのように始めていき、南池袋ではLIVING LOOPのチームが運営をしている。まちでゴミを拾い、終わったあとはみんなでコーヒーを飲む。ゴミ拾いとコーヒーを通して、普段話したことのない人同士がつながり合い、友達になっていく。こうした活動もあってか、今の池袋は顔見知り同士が多いまちだと感じる宮田さん。
「この10年、このまちでいろんな方たちが活動してきた結果生まれていったものだと思うのですが、カオスだけど全体的に緩やかな一体感があるというのが池袋や豊島区の面白いところだなと思います」
みんなのやってみたい! を受けとめるまちにしたい
宮田さんにお話を伺ったのはLIVING LOOPスペシャルマーケットの当日。豊島区はもちろん、区外や全国からも多くの出店者が参加し、開催期間も3日間という通常より大きな規模での開催だ。
「最初はnestと豊島区で連携しながら進めていましたが、2020年からグリップセカンド、サンシャインシティ、良品計画、との4社で事業を進めていくことになり、事業パートナーが増えました。その方たちもまちに拠点を持っているので、もともと目指していた、まちを回遊しながら楽しんでもらうということを、チームになったことでより実現しやすくなりました。マーケットに関わってくれている人がが言っていたんですけど、今年は文化祭っぽい場だったなと。まちという学校全体の人たちが一堂に会して、その場をすごく面白がっているということが起きていました」
池袋のまちの光景には欠かせない存在の宮田さん。そんな彼女が今後このまちに期待することとは?
「積み重ねたものが花開いてきた感じがすごくあるんですよね。STREET KIOSKでほかの店舗とのコラボをやるとか、とりあえずやってみよう! っていう機運がすごく高まっていて。誰かのやってみたい、を受けとめたい、面白がりたいという人がまちにいるので、チャレンジの機会を増やして、チャレンジする人をサポートしていく。グリーン大通り全体を使って面白そうなことをやってみたい人を受けとめる、みたいな。そういうこともやってみたいなと思います」
2032年には区制100周年を迎える池袋。この10年でまちは大きく変化してきたが、さらにどうなってほしいのだろうか。
「駅前の広場化をやっていこうという話が豊島区ではずっと出ていて。LIVING LOOPで生まれている風景が本当に日常に浸透していったら嬉しいですね。たとえば沿道の建物が建て替えをするときに、1階にSTREET KIOSKから派生した店舗が入るとか。生態系として変化していい意味での新陳代謝があったり、引き続き緩やかにつながりあったり、いろいろな新しい動きがあったらいいなと思います」
ちなみに池袋を知り尽くした宮田さんが好きなお店は?
「そうですね、色々ありますけど……。最近私たちのトークイベントに出てくれたお店だとCOFFEE VALLEY。コーヒーがすごく美味しいのはもちろん、オーナーの小池さんのスタンスがすごくいいなと思っていて。まちをよくしたいという大義はないんです、と話しながら淡々と自分の好きなことや面白いことをやっている方。LIVING LOOPの今年度のテーマが『ネイバーフッドコミュニティ』なので、顔の見える関係やまちとの関わりを広げていくときの心持ちとして、そのスタンスがすごく素敵だなと思っています」
企業や全てを背負ってまちに出るというのはすごく難しいし、しがらみもある。そこを一旦置いて、個人としてまちに関わっていけば、この人が言うならやってみよう、という関係を築けるのではないかと話す宮田さん。LIVING LOOPのテーマである『ネイバーフッドコミュニティ』が実現できる日もそう遠くないだろう。
文:長 紅奈見 写真:北浦汐見
※一部の写真は取材先よりご提供いただいています