生き物大好き少年が水族館の館長に。生き物と人間のつながりを感じてほしい
池袋の名所の一つといえば、サンシャイン水族館。空を飛ぶように泳ぐアシカの姿がみられる「サンシャインアクアリング」など、斬新な展示で多くのお客さんを魅了する都会のオアシスだ。そんなサンシャイン水族館を率いる館長・丸山克志さんは、どんな人なのだろうか。少年時代の話から、池袋のまちに対する想いまで、館長に話を聞いてきた。
少年時代のフィールドはお寺の境内
小さい頃から生き物が好きで好きでしょうがなかったという丸山さん。生まれ育ちは東京・深川の下町。丸山少年にとって自然といえば、お寺の境内や神社裏の池だった。
「水の中の生き物も昆虫も大好きでした。幼稚園があったお寺の境内に林や草が生えている場所があったので、そこで虫を観察したり捕まえたり、神社の裏の池で怒られながら釣りをしたり。けして自然が豊かな地元ではなかったですが、そういったところをメインフィールドとして、生き物と触れ合っていましたね」
あくなき好奇心はそのままに、高校では生物部で魚類担当、大学は東京水産大学(現東京海洋大学)へと進学。東京湾で釣りをしたり、サークル活動で湖や山に行ったりと活動のフィールドも広くなっていった。
「なぜ生き物が好きなのかと言われると、ただ面白いからとしか言えませんね。朝から夕方までアリの巣を観察していて近所のおばさんに心配されたこともあったり、ブラックバスの稚魚を捕まえてきて家で飼育したり。そうして生き物と触れ合うなかで知ることがたくさんあった。小さな頃から持っていた知的好奇心がそのまま、現在につながっています」
飼育員として水族館の世界へ。丸山館長の考える水族館の役割とは
大学卒業後、飼育員として水族館に働くこととなった丸山さん。ほとんどは魚類の飼育担当だったが、海獣の担当(サンシャイン水族館では海に生息する哺乳類等に加えペンギンなどの鳥類も含む)だったことも。その後、1991年のしながわ水族館オープンや、2011年のサンシャイン水族館リニューアルに携わり、2015年にサンシャイン水族館の館長に就任。生き物が大好きという気持ちはそのままに、さらに大きな使命感が芽生えたという丸山さん。
「水中の生き物も昆虫もみんな、私たち人間の世界と繋がっているんですね。私たちの生活や経済活動が生き物の世界に影響を与えるし、生き物が僕たちに対して影響していることもある。水族館の役割は、まずはそういった広く生き物の世界に関心を持ってもらって、自分との関連性を感じてもらうこと。その先に、環境問題やSDGsへの取り組みがあると思っています。啓蒙的になりすぎるのではなくて、自然に良い循環を生み出すためのスタート地点に水族館がなれたらいいと思っています」
生き物の世界に触れて、彼らに興味・関心を持つことが、自然環境の保護につながる。最もフレンドリーな入口になることが、丸山さんの考える水族館の役割なのだ。
「最初は純粋に“生き物が好き”という気持ちでこの世界に入りましたが、今は水族館の責任を強く感じています。そしてスタッフのみんなと一緒に、水族館の役目を果たせるかもしれない、という立場にいられること自体が幸せですね」
ちなみに館長が一番好きな水槽はというと、入口を入ってすぐ左側にある「サンゴ礁の海 」水槽。鮮やかなサンゴ礁とそこに暮らす魚たちの暮らしがみえる展示だ。
「サンゴ礁は地味だと思われるかもしれませんが、サンゴ礁を中心にさまざまな生態系が存在しているという、海の中の1シーンを表現しているところが好きです。魚たちが敵から身を守るためにサンゴ礁に隠れる、といったような自然な動きをみてもらえるように、少々の敵も一緒に入れています。弱肉強食を見せたいわけではないので、ほかの魚を食べてしまうような強敵は入れませんが。そういう意味で、まだまだやれることもたくさんある水槽だと思っています」
池袋をどんな人も“いきいき”した気分で帰ってもらえるまちにしたい。
さまざまなお店や人が集まる池袋のまち。自然が大好きだった丸山さんにとって、池袋のまちは釣りの道具を調達する場所だったそうだ。
「東口から北池袋のほうに歩いて行ったところに『サンスイ』という釣具専門店があって、そこにはたまに行っていました。釣り方の一つとして、ルアーやフライに特化しているお店で、ほかのお店にはないようなものもたくさんあって。お寿司や焼肉が好きなので、これからは池袋のまちで美味しいところを探したいですね」
そんな池袋に水族館の館長として関わるようになった今、より広い視野でまちを見つめる丸山さん。今後まちが変わっていくなかで、サンシャイン水族館もその変化を助ける一部となりたいと考えている。
「このまちには色々な人が来ます。元気な人もいれば、そうじゃない人もいるでしょう。どんな人も、池袋に来た帰りにはすこし元気になって帰ってくれるようなまちになっていったらいいなと思います。サンシャイン水族館からまちをいきいきとさせていきたいです」
常に時代の変化に合わせ、その時々に合わせた役割を果たせるように進化してきたサンシャイン水族館。池袋のランドマークとして、これからもたくさんの人に生き物の世界を見せてほしい。
文:井上麻子 写真:立花 智
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。