知らないものを知る楽しさ。冒険欲を満たしてくれる池袋の旅
2022年1月からスタートした「池袋タイムズ」。1日およそ3記事を更新するというハイスピードでまちの情報を発信し続け、今や100万を超えるPV数を誇るメディアとなっている人気ウェブマガジンだ。今回は毎日池袋を歩いてネタ探しをしているという編集長のちゅうぞうさんにインタビューを実施。「池袋タイムズ」の成り立ちや取材スタイル、池袋のまちの魅力を聞いてみた。
始まりはランチブログ。池袋のまちをこれから知りたい人のためのウェブマガジン
「池袋タイムズ」が伝えるのは、主にまちのグルメやイベント、店舗のオープン・クローズ情報など。編集長のちゅうぞうさんはもともと、板橋のエリア情報を発信する「いたばしTIMES」を2015年より運営。その第2章として、今度は自分のルーツである池袋を拠点に活動をスタートしたというわけだ。編集方針は“素人目線”。まちに慣れた玄人よりも、これから池袋を知りたいという、まちに興味のある人に向けたサイトにしたいと話す。
「板橋で会社経営をしていた時、毎日のランチが楽しみで個人的にブログをつけていたんです。それが大きくなって『いたばしTIMES』になりました。板橋はローカル感の強いまちですが、池袋は超繁華街。全然違う属性のまちを掘ってみたくて、次は池袋を舞台にすることに。実は僕、池袋第一小学校、池袋中学校の出身で、ここらへんが地元なんですよ。とは言っても、大人になって改めて見る池袋は別世界。まだまだ開拓途中なので、素人目線で自分がおもしろいと思ったことを日々発信しています」
毎日スマホを片手にまちを歩き、ネタを探しているというちゅうぞうさん。面白そうなお店があればフラッと立ち寄り、撮影したいと思えばその場で交渉。取材はほとんどアポなしだ。またサイトには読者からの口コミ情報が毎日のように寄せられるので、その中から気になるお店を選んで行ってみることも多いそう。ちゅうぞうさんいわく「池袋タイムズ」は「『探偵ナイトスクープ』のような感じ」なんだそう。
ちなみに最近のヒット記事は、南池袋遺跡の見学会レポート、立教大学の中のレストラン・日比谷松本楼、西池袋にある本格台湾モーニングの店・台湾早餐天国のもの。読者の興味関心がわかって面白い。
「どうやって自分の好奇心を満たすか」を求めていたら編集長になっていた!
名のあるIT企業などを経て、現在は編集長を本業とするちゅうぞうさん。情報発信する楽しみを知ったのは、若かりし頃に思い切って旅立った世界一周旅行だった。
「27歳で起業をしようと思って会社を辞めたんですが、世界一周をするのが昔からの夢で。行くなら今しかないとバックパックを背負い、1年半をかけて旅に出ました。その時もブログを書きながら旅をしていたんですが、当時はまだ旅ブログみたいなものが珍しかったこともあって、思いがけない人たちに届いたんですよ。知らない人がエジプトまで会いに来てくれたり、テレビ出演依頼がきたり。その時『情報って発信すれば、ちゃんと届くんだな』と実感したんです。それが今の自分に繋がっていると思います」
冒険心旺盛なちゅうぞうさんだが、家族ができたことで、自分の近くの世界の魅力に気が付くことになる。
「昔は海外など外の世界に興味津々だったんですが、結婚して子供ができて、行動範囲が自転車圏内になった時に初めて、自分の暮らしている内の世界に目が向くようになりました。そうしたら、今まで行ったことのなかった近所のお店が意外と良い店だったりして、掘り下げるのが面白くなっちゃって」
まちを歩き、面白いと思ったら飛び込んでみる。それはまるで旅をしているのと同じ感覚だとちゅうぞうさんは話す。
「僕の人生のテーマはいつも、“どうやって自分の好奇心を満たすか”。池袋タイムズをつくるなかで、入りにくい雰囲気のお店に突撃したり、知らないものを知ったりすることが、僕の冒険欲を満たしてくれます。まさに地元を旅している感覚。もっともっと深く掘っていきたいと思っています。」
変わるものと変わらないものの両方がある池袋。どっちも僕は好きです
ちゅうぞうさんの嗅覚が働くのは、古いお店や入りづらい店、路地裏など、いかにも冒険心を刺激してくれる場所。ドキドキしながら扉を開ける感覚がたまらないそうだが、池袋でいうと、どのエリアが気になっているのだろうか。
「西口にテンションが上がりますね。東口は綺麗なイメージだけど、西口は大衆酒場などもあって、ちょっとディープじゃないですか。路地裏も探検したくなります。あとはガチ中華のお店も好きで、雑居ビルの扉を開ける感じとか、中国語しか聞こえなくて自分がお邪魔している感覚がすごく好き。もちろんドキドキしますが、開けた時に見える景色が楽しいんですよ」
お気に入りのお店を尋ねると、即答で返ってきたのは東池袋2丁目にあるシルクロード料理の「沙漠之月」。どうやらかなり個性的なお店らしい。
「もともと砂漠の中にあるオアシス・敦煌(とんこう)というまちにあったレストランで、なぜか2012年に池袋に移転してきたんです。席数6名ほどの小さなお店を女性が1人で切り盛りしていて、料理もお客さんの要望を聞きながら作ってくれるのですが、全員の要望を聞く余裕がないんですよ。だから知らないお客さん同士が相談して、同じものを食べることになる(笑)。それがすごく面白くて、お客さん同士の出会いも味わい深い。ぜひ一度行ってみてほしいですね」
池袋のディープな側面を愛するちゅうぞうさん。まちの未来について思うことはあるか尋ねてみた。
「池袋は混沌としているところがひとつの魅力だと思うので、あまり綺麗になりすぎず、冒険し続けられるまちであってほしいです。とはいえ、きっとカオスな部分は残っていくと思うんです。豊島区役所や南池袋公園など、現代的に新しく生まれ変わったものもありますが、路地裏の怪しさは変わらないですものね。どちらにしても僕は、変わらない部分も、変わっていく部分も、どんなものが来てもこのまちを楽しみたいと思います」
文:井上麻子 写真:立花 智