まちの時代を担う期待のルーキー! 人と人とをつなぐ架け橋に
ガラス卸販売のマテックス株式会社が、新たな取り組みとして2023年5月にスタートした「HIRAKU IKEBUKURO 01 / SOCIAL DESIGN LIBRARY」(以下、SDL)。窓と本を起点に社会をデザインするサードプレイスで、図書館・学校・ギャラリー・劇場・公園・仕事場・実験場・事業相談所・社会的事業といった多彩な役割を担うコミュニティスペースだ。ここでコミュニティマネージャーとして働く植田美佳子さんは、SDLオープンと同時期に入社したマテックスの新入社員。SDLとはいわば同期のような存在の彼女に、これまでの経緯、SDLとまちに対する思いを伺った。
大学卒業直前まで悩んだ自身の進路。決意できたのは人との縁
池袋に誕生した「HIRAKU IKEBUKURO 01 / SOCIAL DESIGN LIBRARY」(以下、SDL)。ライブラリーといっても、ただ単に本を閲覧するというだけの場ではない。目指すのは新しいかたちの学びと交流のスペース。SDLをつくるファウンダーと専門家のみならず、地域の企業や地元の人々が参画し共につくり上げる場として常設展や企画展、イベントの開催、スクール事業などを展開している。
植田さんは、ここで受付業務やスタッフのマネジメント、企画立案などに携わる。マテックスに入社しSDLに配属されるまで、どのような経緯があったのだろうか。
「大学時代に『NPO法人 ゼファー池袋まちづくり』が行うウイロードの清掃ボランティア活動や、社会貢献活動見本市でお手伝いをさせていただいたのですが、その懇親会の場で弊社の戸口と岩崎に『コミュニティマネージャーに興味はありませんか?』とスカウトされたのがきっかけです」
現在は経営企画部の先輩社員である戸口さんと岩崎さんと出会ったのは、大学4年生の3月。卒業式まで1週間というタイミングだった。
「卒業間近だったのですが、実はまだ自分の進むべき道に迷っていた時期でした。デンマークの国民学校・フォルケホイスコーレに留学し、北欧の思想を学びたいという夢はあったものの世間一般的には社会人になる年齢ですし、両親からのプレッシャーもあって(笑)。悩んでいたときに声をかけていただいたんです。デンマーク語で居心地の良い雰囲気を意味する“ヒュッゲ”という私の大好きな言葉があるのですが、マテックスが提唱する『窓ごこち=窓辺で過ごす心地良さ』がヒュッゲの思想から着想を得ていると教えてもらって。そんな会社の理念に共感したことも、入社を決める要素になりました」
ボランティアがきっかけでマテックスに出会い、毎日通学バスから眺めていた景色の中にはマテックスの事務所があった。そんな偶然の巡り合わせに「縁を感じる」と、話す植田さん。大学で専攻していた観光学という学問にも、SDLの業務とのつながりを感じているそう。
「授業の一環で、埼玉県秩父市の観光マップを制作したことがあるんです。地域に入ってインタビューしたり、まちを歩きながら魅力を発見したり。地域の魅力を発見するという点は、SDLが発信するソーシャルデザインと通ずるものがあります。観光学は社会学の一分野で、社会事象を多面的に研究する学問。そして、ソーシャルデザインはさまざまな視点から社会を設計していく計画。どちらも人、もの、まち……さまざまなファクターから検討していくという点が同じなんです」
学びと出会いをつなぎ、新しい可能性の扉をひらいていきたい
SDLの特徴の一つが、雑誌のようにさまざまなコンテンツをもつこと。交流棚・展示棚・探究棚というテーマごとにカテゴライズされた「7つの本棚」の一つ「HIRAKU書店」には、植田さんがセレクトした本も並べられている。
「HIRAKU書店は書棚の1区画を借りた方がオーナーとなり、おすすめの本を販売するシェア型書店です。オープンしたばかりでまだ書棚に空きがある状態なのですが、活気をもたせるために私のお気に入りの本を置こうかなって(笑)。もともと読書好きではあったのですが、ここで仕事をするようになってからは大学でお世話になった教授や講師が執筆した本を読むことが多くなりました。今は大学でトラベルジャーナリズム論の授業を担当していただいた田中真知先生の旅行記を読んでいます。マテックスに入社したのも縁ですし、学生時代の先生方との縁がここで生かせている。たくさんの方に支えられていることに感謝しています」
人脈に恵まれ、縁がつながっていくのは、植田さんがもつ誠実な人柄と学ぶことへの謙虚な姿勢があるからだろう。社会人としてスタートを切ったばかりの彼女にとっては、毎日が学びと出会いの連続だ。
「これまで私は淡々と過ごしてきて、自分のやりたいことや誇りがもてるようなこともありませんでした。でも、この場所に来てくださる方たちは自分のやりたいことや好きなことが明確で、それに向かって諦めない。私が見てきた世界とは違う視点で生きてきたんだろうなと感じます。だからこそ、利用者の方たちとの会話はとっても刺激的で、いろいろなことを吸収できている気がするんです」
キラキラと目を輝かせながら話す植田さん。入社して間もないとは思えないほど堂々としているのは、持ち前の柔軟性と日々の業務の何気ないひとコマを大切にする気持ちがあるからこそ。これから、SDLをどのような場所に成長させていきたいのだろうか。
「SDLは知・人・まち・アクティビティ・社会をつなぐ媒体ですから、ここではたくさんの人との出会いがあります。私が普段から心掛けているのは、相手に興味をもつこと。相手を知る部分から始めて、相手が話してくれたことから課題をすくい上げ、この場所でお手伝いをしていきたいんです。本が好きな方は話題も豊富で、いろいろなお話をしていただけるんですよ。オープンしたばかりで、まだまだ認知が十分であるとはいえません。私だけがこの場所の良さを享受しているという感覚があるので、もっと活気のある、ひらかれた場所に成長させたい。ソーシャルデザインに携わる方や豊島区のビジネスパーソンはもちろん、地域の人も気軽に入れる、ワクワクするようなイベントを企画したいと思っています。そして、私が潤滑油のような役割を担い、訪れた方同士でコミュニケーションが生まれてつながっていってほしいですね」
池袋は背伸びする必要のない懐の深いまち
SDLの南北に設置されているのが、「ひらかれた場」にふさわしい吹き抜けの大きな窓。ここから、池袋の空とまち並みを眺めるのがホッとできるひとときにもなっているそう。植田さんにとって、池袋はどのようなまちなのだろうか。
「大学のキャンパスが池袋にあるのですが、観光学部があるのは埼玉県。だから、池袋との付き合いは大学4年生の後半になってからなんです。単位がほぼ取得できたタイミングで、せっかくだから池袋キャンパスの授業も受講してみようかなと訪れるようになりました。付き合いは短いですが、池袋は私にとって居心地の良いまち。最初に訪れたときに実家のある大阪の難波に似ている感じがしましたし、父が中国人なので北口の中華街も大好き。東京は“頑張って過ごす都市”というイメージがあったのですが、池袋は寛容で、ありのままの自分でいられるまちだと思っています」
大学時代は「東京ディープチャイナ研究会」メンバーとして、ガチ中華の発掘に奔走した経験もある植田さん。最後に、ふるさとのような懐かしさのある池袋でオススメのガチ中華店を教えてもらった。
「中国の家庭料理を提供している『沙漠之月』ですね。山西省出身のママが一人で切り盛りしているお店です。料理のおいしさはもちろん、ママが明るくてお話上手で本当にすてきな方。生地作りから手掛ける麺をはじめ、どのメニューもおいしいのでオススメです! 私は、ご飯を食べに行きながら人との接し方や雰囲気づくりも勉強させてもらっています(笑)」
文:濱岡操緒 写真:北浦汐見